オーブン 飴山瑛
クッキーを焼く朝
バターまみれの手
いつまでも来ない夜
チェリーを埋め込む
ひかる
目が乾く
火が
燃えている
いつまでも起きているから
どこまでも朝
佇んでいると
指の先から
そっと
透き通ってゆく
理由がないから
もう暫く
夢は見ていない
眠ると
真っ暗が
やってくる
黒い根は
背中を突き破り
そっと夜に
花を咲かせる
降り積もる花びらを
そっと口に運ぶと
現はわたしを離れ
しゃぼん玉は破れる
うちがわが
こぼれてゆくと
わたしは
世界になってしまう
ひとりをやめたから
さみしくない
でも
何も抱きしめられない
夜は朝と重なり
時がなくなってゆく
ちん、とオーブンが鳴る
うっすらと焦げた生地が
まだやわらかい
薄暗い部屋
電灯をつける
窓に
朝焼けがある
まだ眠らない夜を
傍らにして