真実を宿す詩人 荒木章太郎
月夜のしじまに
私人が訪問に来た
インターホン越しに
おおやけの話を聞かせてくれた
かつては公人だったらしい
俺は夕焼けの詩人だから
疑い深く、彼を家に招かなかった
録音されていることを承知で
互いに死人の話をした
理不尽で罪深き夕闇の話だ
明け方の話に至り
一つの物語が生まれた
それは真実だった
顔を合わせることなく
二人は別れた
俺はこの話を公表することを
頼まれはしなかった
距離は縮まらず
信頼は得られなかったのだろう
だが、俺の責任の元で
この物語を公表することにした