瓦解した夜に雨を読む 人と庸
眠れないときは
本の文字をたどるように
雨の音を読む
さらさらさら
ぼつぼつぼつ
とたとたとた
ばらばらになった手や足や
首や胴をかき集めて
ひとつひとつ
雨の音を読む
さらさらさら
ぼつぼつぼつ
とたとたとた
いつも確かなものをつかもうとした
確かにひとつずつ積み上げようとしたが
疾うにくずれおちていたらしい
その残骸で散らかった夜だ
残骸の上にも雨が降る
さらさらさら
ぼつぼつぼつ
とたとたとた
もうもとにはもどらないのだろう
その場しのぎで加工を繰り返したパーツたちは
どれとも組み合わないものばかりが残ってしまった
さらさらさら
ぼつぼつぼつ
とたとたとた
今夜は雨が降っていない
けしてもとにはもどれない
けれどもあたらしいかたちにもなれない
それでも今日も手や足や
首や胴をかき集めて
降らない雨の音を読む
「さらさらさら」
「ぼつぼつぼつ」
「とたとたとた」