「拝啓、ノッポの古時計」 佐々木礫
僕はただの安楽椅子。
丈夫な脚で君を支え、
揺れる木目の背もたれで、
君の疲れた体をそっと包む、
祖父の書斎の静かな存在。
君が幼かった頃、
笑い声を響かせて、
絵本を膝に置き、
ページをめくる指先の音が、
張られた布に染み込んでいる。
君が成長し、
悩みに肩を落とし、
泣き疲れた夜も、
僕はただ君を揺らしていたい。
何も語らず、
君の体重を受け止めること、
それが僕の喜びだから。
ふと思う。
もしも、僕という安楽椅子が、
何十年も君を抱えて、
いつか年老いた君がふと立ち上がり、
向かうべき場所へ向かうなら、
それはとても美しい生涯だと。