「谷川では瑠璃色の美しい鳥が朝をつげる」
山賊はかどわかす美しい娘ら 世にもまれな彼女たち どこに売ろうかな 法外な値段で
(谷川では瑠璃色の美しい鳥が朝をつげる 霧にくるまれた柔らかな朝が次第に明ける)
山賊たちは腕自慢 近くの百姓はおろか騎士たちにも恐れられている
(朝はしずかに透明に溶け行きまぶしい光を乱射させる)
山賊どもは、大騒ぎ、めったにない美しい獲物を、見ては、酒を飲み、肉を食う
(今日一日の天啓と言った美しい光が、谷から山々にのぼってゆく)
このあたりに山賊を討つものはひとりもいない。金持ちたちは、むしろ、この美しい娘らが、いくらの値段で売り出されるか、もっぱらの評判。あの一番美しい娘には、いくらの値が付くかで、大騒ぎの程じゃ。
(夜が明けた森の精は、しずかにそよかぜを吹かせながら、流れてゆく)
山賊たちは、酒が入ると、どの美しい娘が、自分のものか、次第に内輪喧嘩をはじめる
(山の精は、いつもながらの鳥の鳴き声と、霧の流れ、晴れるさまを、見物していたが、山がはやくも夏が終わりそうなのを気にしておった)
しかし、集まった金持ちたちが、金にものをい言わせて娘らを高値で買い取るので、山賊どもの内輪喧嘩も次第にしたびになってゆくのじゃった
(その日は山は美しく晴れた日じゃった、空から転輪王(注)がふってくる日じゃった)
金持ちと山賊の酒宴と取引のあと、娘らは、泣き泣き方々へ引き取られてゆくのじゃた
(しかし、それを観ておった、転輪王は、山賊どもと金持どもがまた悪いたくらみをしおったな。と、思って転輪王の天空のラッパをたからかに吹くのじゃった)
まあ、あれよ不思議、山賊や金持は、みすぼらしい貧乏人になり、娘らは、天馬に乗って、生まれ故郷へかえるのじゃった
(転輪王は、また人助けをしてしもうたわいと、言いながら、食後の午睡をするのじゃった。谷と山はいつものように美しかった)
その後の山賊、金持、娘らの行く方はだれもしらんそうじゃ。
(注)てんりん‐おう〔‐ワウ〕【転輪王】
《(梵)Cakravarti-rājanの訳》古代インドの伝説上の理想的国王。 身に三十二相を備え、即位のとき天より感得した輪宝によって四方を降伏 (ごうぶく) させる。 輪宝の種類により、金輪王・銀輪王・銅輪王・鉄輪王の四王がある。 転輪聖王。