物語 喜太郎
大空は悪意に満ち溢れている
いつからだろう
青空を知らない子供たちが育つ
この村も曇天が空を覆い
悲しみと憎しみの中にある
子供たちは昔話で
長から青空を聞く
やがて一人の旅人が来て
村の丘に立つ
大地に片膝をつき
しっかりと大地と一つになる
左手に持った大きな弓に
錆びた鉄の矢をあてがい
上半身に渾身の力を込める
鉄の矢を徐々に天空に向けて引くと
弓がギリギリと鳴き始める
両腕に隆起し始める紅い筋肉と太い血管
弓は限界まで引かれた
男の強い眼差しは
天空の一点から離れない
やがて僅かに震える両手の筋肉と弓矢が
止まる
訝しげに集まった村人たちの中に
緊張と静寂が広がる瞬間
まるで石像のような弓を構える男から
弓が大きく鳴き響いた
風を切る音と共に
矢は天空に向かい
一筋の金色の光となる
曇天に消えた金色の光の点
空を見つめる子供たちの瞳に
青空が徐々に広がる
男は立ち上がり歩き出す
次の矢を射る場所を求めて
そして長は誓う
もう二度と悪意に満ちた空にはしないことと
子供たちに語り継ぐことを
やがて物語となり語り継がれてゆく