淡い自我の君 佐々木礫
君の優しさを僕は知りません。ただ、分厚いガラスの向こう側で、穏やかな風が吹いているのを、何となく感じられるのです。
この手が君に触れずとも、君が持っている恋というもの、致し方なく湧いて出る愛というもの、その心を知る君の笑顔が、僕の網膜に映し出されます。僕はただ、それを観ている時間が好きです。
君の手を取り街を歩けど、恋することはできません。部屋で二人で映画を観ても、愛は溢れて来ないのです。
僕は君に触れられずとも、悲しいことはないのです。君が持つ心がこの世にあるなら、僕が持たずとも良いのです。
僕は幽霊のようでありました。心なき幽霊を支えるものは、いつも墓場の花束一つ。あなたの愛が欲しいのです。