空の線 松本福広
夕やけ小やけのチャイムの音が聞こえて
そんな時間になるのだなと空を見る
夕暮れになり空が赤く染まる中に
カラスらも帰る時間のようで仲間と共に飛び立っていく
送電塔の電線は「ここ」と「帰る場所」の境界線なのかもしれない
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
そんな書き出しからの高村光太郎氏の詩
智恵子さんのいう本当の空は
私にはきっと見られない
何本も空に浮かぶ黒い線は本当の空を遮る境界線なのかもしれない
コンクリートの森の中も、建っては消えるような場所もある
繰り返される想像と破壊に
自然破壊を憂える人間が植林した電柱並木の道が広がる
最近では無電柱化という電柱を地下に埋める計画もある
電線は依然とした文明と新しくなろうとする文明の境界線なのだろうか
東京の空は一部では計画が進み「空が広くなった」との意見もある
今まで小鳥が羽を休める姿が
昔から景色に溶け込んでいたものがなくなる
電線は都市に暮らすために僕らの生活の小指に結ばれた
信頼の黒い糸だと思っていた
昔から今を繋ぎ続ける線は
今も空で繋がれ
その役目を果たし続けている
記憶と歴史を忘却させていくような空洞の青が広がる
線と線で結んだ生活から思い出を編んできたんだ
あなたの本当の空で
私の空を否定しないでほしい