絶滅危惧種 静間安夫
今年も記録ずくめの
長く暑い夏がやっと終わり
11月にしてようやく
秋がきたようだ
ここにきて急に
いちょうの葉が黄金色に変わり
柿の実がいっそう色づき
空にはちぎれ雲が浮かんでいる
でも
そんなふうに
駆け足でやってきた秋は
やはり駆け足で
去って行ってしまう
なぜって すでに
木枯らし1号が吹きわたり
ツワブキが咲き
クリスマスソングが
聞こえ始めた街角は
早くも初冬の装いだから
こんな具合で
年を追うごとに
秋は短くなる一方
むかしは
秋といえば
夏の盛りの夕方に
ふっと吹き抜ける風の涼しさに
その訪れを感じとったもの
やがて
長雨に育まれ
スズムシの声に包まれて
秋はいっそう
秋らしくなり
さらに
長雨が明ければ
空は高く
青く透明になり…
こうして
秋は少しずつ
時間をかけながら
深まっていくものだった
そうした
秋の深まる様子ほど
わたしのこころに
生のはかなさを
感じさせたものはない
いや、それだからこそ
生を慈しむ気持ちも
いや増すのだ
それが今は
気候変動のせいだろうか
秋は慌ただしくやってきたと思ったら
さっさと立ち去っていく…
これでは感慨も情緒も
あったものではない
やがては夏から冬に
一足飛びに変わるようになり
秋という季節は
消えてしまうのだろうか?
わたしのこよなく愛する
この秋という季節は
やはり わたしの愛してやまない
昭和の面影を残した路地や
縁側のある家や
街角の本屋や
銭湯や
懐かしいお国なまりと一緒に
姿を消して行くのだろうか?
そうなのだ
これらはみな
次の時代には
生き残ることが困難な
絶滅危惧種
そうして何よりも
そんな滅びゆくものばかりに
愛着を持ち、いつまでも
その後ろ姿を追いかけていく
わたしそのものが
絶滅危惧種のひとりなのだ…
なぜって
ITやAIが支配する世界に
さっぱりなじめず
電子書籍より紙の本の温もりが
しっくりするわたしは
確かに絶滅危惧種に違いないから
けれども
そんなわたしだからこそ
失われゆくものに深く共感し
その在りようを書き残すことが
できるのではなかろうか?
もし詩神がおられるなら
どうかわたしが
せめて数行の
美しい詩句を生み出し
消え行くものに
捧げることができるよう
願わくは
慈悲を与えたまえ