ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲が好きなネコ 温泉郷
ベートーヴェンの
後期弦楽四重奏曲が好きなネコが
その日の気分にあった曲を選んで
ヘッドホンで聴きながら歩いていたら
街の人たちが
「そんな難しい曲ネコがわかるはずがない」
「ネコのくせに生意気だ」といいだしたので
嫌われたくなかったネコは
選曲を変えて
同じベートーヴェンでも
ピアノソナタにしたら
以前ほど
つらくあたられることはなくなった
ベートーヴェンの
交響曲を聞きたいときは
好きな1番、2番、4番、8番は控えて
有名な3番、5番、7番、9番にしておいたら
街の人は何も言わなかった
ただ ネコにとってこれらは
やや つらいのだ
でも「偉いね」といって
撫でてくれる人もでてきた
ネコが本当に好きなのは
後期弦楽四重奏曲だったので
家にいるときは
それを思う存分聴くようにした
好きな曲を聴いているときのネコは
髭がトロンと溶けて
尻尾もダランと床に延びるのだ
「ああ 人と付き合うのは疲れるね」
とネコは思うけれど
人が自分に対して感じることも
わからないではないので
「人も案外 可愛いね」とも思っている
ネコはいずれ
ネコ音楽堂で
ネコ演奏家に頼んで
渾身の後期弦楽四重奏曲を
街の人と一緒に
じっくり聞きたいなと
夢みている