現実の産声 荒木章太郎
沈むロマン
ああっ
真っ赤なロマンが
静かに沈む
酔いを覚ます間もなく
俺は詩に酔いしれ
傲慢な陽を昇らせる
昼間から夢を見るなど
普通じゃない
背を向けた現実を追いかけ
「ちょっと」と手を伸ばす
その瞬間
沼が俺を掴む
「できない……」
声をかける意志が
足元に沈んでいく
遠ざかる声
振り返らず
遠ざかる足音を聴く
目を閉じても
ロマンは沈み
涙は枯れて
静かな現実が目の前に
現実の産声
夜が来る
夢の帷が降りる頃
俺は現実を掴みきれず
夢の外に立つ
だが俺は
フィクションではない