12/3〜12/5 ご投稿分の感想です。 紗野玲空
都合によりお先に失礼致します。
12/3〜12/5にご投稿いただいた作品の感想・評でございます。
素敵な詩をたくさんありがとうございました。
一所懸命、拝読させていただきました。
しかしながら、作者の意図を読み取れていない部分も多々あるかと存じます。
的外れな感想を述べてしまっているかも知れませんが、詩の味わい方の一つとして、お考えいただけたら幸いです。
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☆「ゆき」 松本福広さま
松本福広様、こんにちは。御投稿ありがとうございます。
急に寒くなってきましたね。
紅葉の季を飛び越えて、街に「ゆき」が訪れるのも、もう間もなくかと感じています。
詩文のレイアウトをとても工夫されたのですね。
ご苦心のあとが、伝わってまいります。
小さい紙面にまとまるようにレイアウトして下さり、申し訳ないような〜心持ちでございます。
縦のラインを強調されたのでしょうか。
「雪の結晶が」「雪の中に落ちる」
「踏まれた土が」「あがっていく」
雪を踏む足の上げ下げの動作
上から下へ〜
降る…という雪の様態がレイアウトによっても強調されているように思いました。
レイアウト上での表現、視覚的なアプローチは素敵ですし、作者の意図も理解できました。
詩句もとても的確に選びこまれています。
雪の有り様を素直にわかりやすく描いてくれています。
かぎとれないにおい、聞き取れない音
それらを、「言葉の雪が降り積もる」と締めています。
言葉にしきれぬ雪の多様性でしょうか。
着地も素敵だと思いました。
もう少し踏み込めるのならば、降り積もった「言葉の雪」をぜひ溶かそうと試みてください。
新たな言葉の結晶が生まれるかも知れません。
さて、ここからは私の好みですので、参考までにお聞きくださいね。
詩文から、降る雪についての情感を十分味わうことはできます。
しかし、レイアウトをぱっと見た印象…雪玉を作ろうとして、掴んだ雪をギュッと固めてしまったような〜そんな印象を受けてしまったんです。
個人的には、詩句の美しい結晶がくっついてしまって、美しさが損なわれてしまわないかしらとふと思ってしまいました。
冒頭部分…
音もないし
においもしないけど
しんしん しんしん
とあります。
静けさと無を感じます。
その後の詩句も、一様に、静謐さの漂いを感じます。
この詩の表そうとする雪の静謐さをいかすには、やはり、紙面の白と無の力を借りた方がいいように思うのです。
絵画や書も、余白が大切ですよね。
オノマトペの数々は特に、1行とした方が詩句としていきるのではないかと感じました。
音もない
においもしない
しんしん しんしん
大地のぬくもり
ほのかに抱いた
冬のにおい
雪の結晶
落ちる 消える
冬の気に抱かれて
……
私なりの解釈で読み取った松本さんの詩の結晶を、集めてみました(かなり強引かつ極端に)。
接続助詞を減らし、倒置を用いると、ぐっと雰囲気が変わります。
音楽で言えば1音1音はとてもきれいなのです。松本さん独自のフレーズごとの歌い方、響かせ方を工夫してみてください
(推敲の結果、結局初稿が一番よかったというのもよくあることですが、その過程で詩が磨かれていくと思います)。
三好達治に「雪」という有名な詩がありますよね。
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
たった2行。感じ方は読み手により様々ですからここでは言及しませんが、情景は鮮やかに読み手それぞれの頭に浮かびます。
私自身が削ることが苦手で、詩文も長くなりがちなので、このような詩にとても憧れます。
「聞き取れない音」やかぎとれないにおいは…、
もしかしたら、無の言葉が雄弁に語ってくれるのかもしれません。
素敵な佳き作品でした。
ありがとうございました。
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☆「花のエキス」 相野零次さま
相野零次様、こんにちは。御投稿ありがとうございます。
相野さんの最近の御詩作…苦心されながら紡がれているのを陰ながら拝読しておりした。
島さんが評の中で「確固とした自我をお持ちなので、他者のことを書いたり、外の風景をスケッチしたって、自我は出てくると思います」と仰っていましたが、正しく、本詩の物語の中には、相野さんの確固とした自我が貫かれており、更には、相野さんが一貫して詩の中で訴えている「優しさを守るための強さ」も見事に描かれている作品だと思いました。
ご自身の分岐点となる作品でしょう。
私が記念すべき作品の評を担当することになり、申し訳なく感じております。
資本主義社会における資本家階級と労働者階級。昨今の労働問題〜理不尽に扱われる労働者、社会格差に対する批判の詩として拝読させていただきました。
「彼ら」としてもいい処を、あえて「男女たち」としている点にまず、相野さんのこだわりを感じました。
「造花の香り」を作る仕事にまつわる比喩、ざっくりと述べてしまうと、香り↔エキス↔己↔仕事…それぞれの言葉が持つ比喩の効果は成功し、後半に語られる「造花」の深い意味に実に見事に繋がっていると思いました。お上手だなあと感心いたしました。
造花の芳醇な香りが、富裕者層、労働者層にもたらす物語が、皮肉を込めてたっぷりと描かれていますね。
構成も内容も綿密に練られて、社会問題に詩情をのせてうたった力作だと思いました。
少し欲を申し上げるならば、例えば5行目がとても長かったり、所々、行の長さが目立つ部分があります。詩文の長さに留意されると、更なる推敲に結びつきますから、より伝わりやすくなるのではないかしらと考えました。
そして、本詩の中で生花の香りを伝えるとしたら、相野さんはどう描くのかしら〜少し興味が湧きました。
余談ですが、某有名香水ブランドのサプライチェーンを取り巻く複雑な社会・経済的状況が問題になったことがありました。ジャスミンの花摘みの為に不当に働かされる子どもたちの権利と保護が訴えられていました。
エジプトのジャスミン産地の女性と4人の子どもたちが1日に収穫するジャスミンの花は約1.5キロ。対価約256円だそうです。
「ここの人間には何の価値もない」
「香水を使うのは別にいい。でも香水を使う人たちには、香水の中にある子どもの痛みを感じてほしい。そして声を上げてほしい」
ジャスミン摘みに従事する女性のこの叫びは、相野さんの詩が比喩に限るものではないと教えられました。
素敵な佳き作品でした。
相野さんは初めて拝読させていただきましたので評価は控えさせていただきます。
ありがとうございました。
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☆「ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲が好きなネコ」 温泉郷さま
温泉郷様、こんにちは。御投稿ありがとうございます。
かわいらしく、微笑ましい作品ですね。
いい意味で肩の力を抜いて書かれたのではないかと感じます。
私もゆったりと、好きな音楽を聞くような気持ちで楽しく拝読させていただきました。
とは申しましても、ベートーヴェン最晩年の難解な後期弦楽四重奏曲をお好みとは、なかなか一筋縄ではいかないネコちゃんですね。
悲愴ソナタを弾く私に、ネコパンチをお見舞いする我が家のネコとは大違い。ただ私の弾くベートーヴェンがお気に召さないだけなんですけどね(笑)
好きなものが聞けずに、好みまで他人に合わせてしまう。
ネコちゃんもなかなか大変…。
ネコらしくないネコだなあとクスッとしてしまいました。
この控えめで、ちょっぴり他との付き合いに神経をすり減らしちゃってるネコちゃんは、温泉郷さんの分身なのでしょう。
さて、本詩の核になっているのは、3連の
ただ ネコにとってこれらは
やや つらいのだ
でも「偉いね」といって
撫でてくれる人もでてきた
5連の
「ああ 人と付き合うのは疲れるね」
とネコは思うけれど
人が自分に対して感じることも
わからないではないので
「人も案外 可愛いね」とも思っている
でしょうか。
ネコの立場でさらりと書かれていて、この詩のスタイルですと、こうした軽やかさこそ大切にすべきだとも思います。
しかし、レベルの高い温泉郷さんですので、もう少し踏み込んで、ネコパンチをきかせてほしいな〜とも感じてしまうのです。
ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』に「ベートーヴェンにとって重さは何か肯定的なものであった」といった記載があるようです。
「そうでなければならないのか?」
「そうでなければならない」
第16番に書き込んだ言葉です。
渾身の後期弦楽四重奏曲を終連で響かせるためにも、この曲でなければならないことを強調するネコちゃんの言葉を、もう少し聞いてみたかったです。
ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲、いいですね。
ネコちゃんは何番がお好きなのかしら。
14番が人気ですが、私は15番も好きです。
いつか、ネコ音楽堂で、ネコ演奏家で…ネコちゃんと一緒に聞いてみたいです。
素敵な佳き作品でした。
御作、佳作とさせていただきます。
ありがとうございました。
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☆「現実の産声」 荒木章太郎さま
荒木章太郎様、こんにちは。御投稿ありがとうございます。
三浦さん流にいうなれば、「冒頭佳作」です。
章太郎さんらしい、いい詩ですね。
沈むロマン
ああっ
真っ赤なロマンが
静かに沈む
……
初連からいいですね。
最初に読んだ時、「ロマン」という言葉がひっかかりましたが、これは「ロマン」でないといけないですね。
その「ロマン」は沈みますが、
俺は詩に酔いしれ
傲慢な陽を昇らせる
「ロマン」と「陽」共に「太陽」なのでしょうが、その言葉、詩文の対比が見事でした。
2連目で夢をみていたとはっきりわかりますが、夢から現実へと向かおうとする際の情景…最後の「沼が俺を掴む」という表現も素晴らしいです。
3連目
「できない……」
セリフを挟み、意志が沈んでいく描写を3行で端的に切っています。
これは私にとっては「詩ができない」の叫びに聞こえます。
その後の4連目で、沈んでゆく情景が丁寧に綴られていきます。
詩の言葉は遠ざかり〜でもその足音を聴こうとするんですね。素敵だと思います。
でも、現実は目の前にあるんですね。
そして5連目、夜が来る。
俺は現実を掴みきれず
夢の外に立つ
力強い言葉ですね。
現実は掴みきれず、かといって夢の中に沈み込むのでもなく、現実と夢の狭間…夢の外に立ち、詩に立ち向かう決意のように私は感じました。(自らも奮い立ちました)
終連、着地も決まってますね。
「フィクション」も「ロマン」も同じく、小説を表す言葉ですが、「ロマン」は感情的、理想的に物事をとらえることを示し、「フィクション」は虚構という意味もあります。
終連で初連の「ロマン」と「フィクション」を呼応させている点〜ロマンは沈むが…「おれはフィクションではない」と潔さが感じられる言い切り方も、とても好ましく感じました。
詩句一つ一つも全く無駄なく、構成も素晴らしいと思います。
新境地の詩の産声を聞かせていただきました。
素敵な佳き作品でした。
ありがとうございました。
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以上、4作品、御投稿いただき、誠にありがとうございました。
それぞれに、素晴らしい作品でした。
十分に読み取れていなかった部分も多かったかと存じます。
読み違いはご指摘いただけたら嬉しいです。
町にクリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝きます。
表向きは何も変わらない毎年恒例のクリスマス前の情景ですが、世界はきな臭く、災害復興は進まず、キャベツは400円を越え…
自身の詩作は滞っております。
個人的に今回の4篇の詩にとても励まされました。
今回の投稿者の皆様のような詩を書きたいと思いました。
勉強させていただきました。
ありがとうございました。
今回をもちまして、私の本年の担当は最後になります。
少し早いですが、皆様、お身体をお大切に、どうかよいお年をお迎えくださいませ。
紗野玲空