柘榴 秋さやか
割れた柘榴を見つめていた
夕焼けを吸うたびに
満ちてゆく内側に耐えきれず
割れてしまったのだろうか
ぎっしりと詰まった一粒一粒の
赤々と透きとおる果肉が
わたしの脈と共鳴しあうように
輝いていた
それは小学校低学年のころ
毎日の習い事が
幼さを味わう余白を
塗りつぶして
頼りなげに寄れた紙を
鞄に詰めてゆく
そうして帰り支度をしていると
個人塾の玄関に飾られた
割れ柘榴が
目に飛び込んできたのだ
無性に喉が渇く
初めて見るその瑞々しい輝きに
釘付けになったわたしは
おもわずひとつぶを
口に含んでしまった
ちいさな果肉が
口の中で弾けると
罪悪感が
からだじゅうに広がってゆく
その種をどうしたか
覚えていないけれど
おそらく一緒に
呑み込んでしまったのだろう
幼い腑に撒かれた
罪の種は
波紋をおこし
沈めていた渇望を露わにしてゆく
みんなと遊びたい
みんなと遊びたい
放課後の校庭の
広さと自由さのなかで
蘇る遠いチャイムの音
さっきまで
無邪気に駆け回るためだった靴を履き
逃げるようにその家を後にした
夕闇の迫りくる下り坂
加速してもつれそうになる足
自分の影に責められながら
自分の影に飲み込まれてゆく
母の胸で告解し
泣くことができていたら
どんなに良かっただろう
烏たちはわたしを見放すように
逆光の山々へと去り
沈んでゆく夕陽はもう
昇らないような気さえした
その日から幾度
ただいま、と言っただろう
いずれ腑の底で
この種が発芽して
血のような花が 開いてしまう前に
渇望を押し殺した
その声の翳りに
母が気づいてくれることを
ただ願って