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スレッドNo.4886

柘榴  秋さやか

割れた柘榴を見つめていた

夕焼けを吸うたびに
満ちてゆく内側に耐えきれず
割れてしまったのだろうか

ぎっしりと詰まった一粒一粒の
赤々と透きとおる果肉が
わたしの脈と共鳴しあうように
輝いていた

それは小学校低学年のころ

毎日の習い事が
幼さを味わう余白を
塗りつぶして
頼りなげに寄れた紙を
鞄に詰めてゆく

そうして帰り支度をしていると
個人塾の玄関に飾られた
割れ柘榴が
目に飛び込んできたのだ

無性に喉が渇く

初めて見るその瑞々しい輝きに
釘付けになったわたしは
おもわずひとつぶを
口に含んでしまった

ちいさな果肉が
口の中で弾けると
罪悪感が
からだじゅうに広がってゆく

その種をどうしたか
覚えていないけれど
おそらく一緒に
呑み込んでしまったのだろう

幼い腑に撒かれた
罪の種は
波紋をおこし
沈めていた渇望を露わにしてゆく

みんなと遊びたい
みんなと遊びたい

放課後の校庭の
広さと自由さのなかで

蘇る遠いチャイムの音

さっきまで
無邪気に駆け回るためだった靴を履き
逃げるようにその家を後にした

夕闇の迫りくる下り坂
加速してもつれそうになる足

自分の影に責められながら
自分の影に飲み込まれてゆく

母の胸で告解し
泣くことができていたら
どんなに良かっただろう

烏たちはわたしを見放すように
逆光の山々へと去り

沈んでゆく夕陽はもう
昇らないような気さえした

その日から幾度
ただいま、と言っただろう

いずれ腑の底で
この種が発芽して
血のような花が 開いてしまう前に

渇望を押し殺した
その声の翳りに

母が気づいてくれることを
ただ願って

編集・削除(編集済: 2024年12月06日 19:19)

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