ゆっくりおやすみ 上田一眞
この頃 もの忘れが酷くなったと
零しているけど それは
神様が
あなたを守ってくれているんです
いま このときを忘れるってことは
この世の哀苦
そして 死の恐怖から
あなたを解き放って
黄泉の入り口に導いているんです
大丈夫 おかあさん *1
認知症でも大丈夫
人は 生まれるときも
死ぬときも
ひとりぼっちだというけれど
そのときは ぼくが
手をとって
黄泉の路を明るい光で照らすから
体重九十五キロ
いくらぶっ叩いても倒れない
頑丈な息子がいるから
安心して
修羅の道を歩んだわれらだけど
もう 悪態はつかないし
もう どこへも行かないから
安心して
大好きな
アルビノー二のアダージョや
カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲を
聴かせてあげるから
いまは ゆっくりおやすみ
蝶々飛ぶ
温かいこころのふる里
光輝く
懐かしい故郷へ
安らかな気持ちで戻ってください
おかあさん
*1 おかあさん 私の継母(養母)