11月26日(火)~11月28日(木)ご投稿分、評と感想です。 (青島江里)
※都合によりお先に失礼いたします。
◎11月26日(火)~11月28日(木)ご投稿分、評と感想です。
☆「谷川では瑠璃色の美しい鳥が朝をつげる」 森山 遼さん
【転輪王】については、よく知りません。作品の後に注釈をつけてくれたのは、読ませていただくうえで、参考になりました。こちらの作品は、いままで投稿していただいたことのないパターンの作品でしたね。よく知らないことを用いた作品でしたが、比較的スムーズに読ませていただけました。
力づくで、或いはお金の力で。権力というものを振り回して自分の思う通りに、満足できるように行動するアクドイ人たち。好き勝手に飲み食いし、好き勝手なことを言い、どんちゃん騒ぎをする。悲しい思いをするのはいつも弱い立場の人たち。許せないと思うけれど、力が及ばす泣き寝入り……。なんだか現代にも通ずるものがあるような気がしてなりませんでした。このまま終わってしまうのかなと思ったら、ここで転輪王が登場!やってくれましたね!どこか水戸黄門という時代劇にも通じる、正義の人の登場でした。現代の世界にもそういう人がいたらいいのになって思ってしまいました。
並行して綴られた括弧書きの自然の風景の描写も美しかったです。最後にまとめの言葉の「谷と山はいつものように美しかった」という言葉。静かな言葉のように思えますが、転輪王の成敗の後に置かれたことで、とても力強い言葉になっています。自然はいつも美しい、つまり、いつも変わらず信じてくれるものたちの味方だという意味にも汲み取れたからです。
どこか現代の問題にも通じる作品。現代のことを現代のままに書くよりも、このような古典を思わせるような雰囲気に仕上げたことで、より詩の世界に入りやすくさせてくれたようにも思えました。真っ白な長いひげをはやした仙人のような、優しいおじいさんを彷彿させてくれるような語り口。とてもユニークなアプローチでした。佳作を。
☆ 本当の名前 相野零次さん
名前。一般にいうと、誕生した時に親につけてもらった名前、戸籍上にある名前などが思い浮かびますよね。現在では、インターネットの世界でのアカウントという名前もあったりして、いろんな名前があちらこちらに浮遊していますね。「本当の名前ってなんだ」……よいテーマだと思いました。深みを感じさせてくれるテーマだと思いました。
表現について気になったところを。
名前って授かるイメージがあって、個人的には、とても大切なものというイメージがあります。なので、二連目なのですが、「どこかに落ちている」とすると、大切なものという感じが薄れてしまいそうな気がしました。木の葉が落ちるに掛けての表現だと思いますが、個人的には、宝探しのようなイメージで「隠れている」や「埋もれている」という感じにした方がよいのかなとも思いました。
あと、四連目ですが、名前を大切なものとして拝読させてもらいますと、「たくさん見つけているのです」となると、名前は生まれた時に授かる一人ずつ一つのものというイメージとは違ってくるので、見つかったと思えるような機会がたくさんあったというようなことを表現される言葉を選ぶ方が無難かなとも思いました。あとは、最終連。ずっと「君」できていたのですが最後には「君たち」になっています。そろえた方が自然かなと思いました。
ところどころ気になるところはあるものの、全体的にはとても詩的な雰囲気が漂う作品になっていて、澄んだ気持ちになれました。
今回は佳作一歩手前を。
☆サーチライトを躱して 荒木章太郎さん
一連目では「広告塔」のみでどういう場を差しているのかがわからなかったですが、二連目では「いじめに関すること?」となり、そこから徐々に視界が開けてきて、最後にはスマホの世界についてのことなのだと、個人的には感じました。だんだんわかっていく段階の間の取り方がユニークでした。こうなのかな?ああなのかな?と手探りして拝読して一気に最終連で開けていく表現方法、なんだかすっきり感を呼び起こしてくれました。面白いことに、一気に開けたあとで「そうだよな。ブロックすればするほど、しつこくされたりとか聞くよなぁ」など、一気にいくつかの感想がドミノのように浮かんできたりしました。
「嫌よ嫌よも好きのうち」とは
なんて暴力的な思い込みだろう
スマホに夢中になっている場合ではない
電子音の讃美歌が嫌で
プロトコールという監獄から
脱走を試みている最中だ
以上二点、印象に残った作者さんの心のさけびでした。スマホの世界のことを頭に置いて考えると、納得でした。またもう一方の「電子音の讃美歌」「プロトコールという監獄」という表現もインパクトありでした。
スマホの世界ってこうだよなぁって書くのではなく、独自の色々なアイデアを作中に織りこんで読み手に手探りすることの面白みを感じさせてくれる作品でした。佳作を。
☆地下道 温泉郷さん
歩行速度、ありますよね。ただ単純に歩いてゆこうと思うけれど、ついつい周辺が気になりだし、変に気を使ったりすることも。「コツコツ/コツコツ」という音。合間に入れることで、詩の流れについての良いアクセントになっていました。また、字面だけでは伝わりにくい、速度を感じさせてくれました。多すぎると、くどすぎてしまいますが、そう思わせないように考えているなと思わせてくれるところもよいと思いました。
コツコツに関して、二行目の「コツコツ歩く」という表現ですが、この部分は二連目のコツコツで充分伝わると思うので、コツコツ以外の別の表現にしてみるのもよいかと思いました。
「歩行速度は人間関係」と、初行からズバッと言ってしまった後、どこにもズレずにまっすぐに書ききったところもよいと思いました。八連目の歩いているシーンは、この作品の中で一番印象に残る場面でした。いつのまにか、たった一人で歩いていたといて、後ろからまた靴音が聞こえていたというところ。ここに「地下道」を持って行ったところがよかったです。一人で歩くというところのなにげない不安、そして後から誰かがどんどん近づいてきたと感じるところ。地下道では通常よりも足音が響きます。足音の強調、近づいてくるという歩行速度、歩行する本人の気持ちの度合いなど、読み手に印象付けさせてくれるという面でも、もっていきどころがよかったです。全体的には、足音、歩行速度に重ねて、人生、生活していくということも感じさせてくれる作品になっていると思いました。すっきりと整理されつつ、伝えたいことは、しっかりと伝えてくれる作品。佳作を。
☆夢のまた夢 ふわり座さん
「夢のまた夢」……。作品を拝読する前にタイトルだけみて想像したのは、憧れの夢に向かって頑張っているけど、なかなか手に届かないというようなことでした。そして読後に思ったことは、やられちゃったなぁ~(笑)でした。夢でさらに夢を見たということだったのかぁ~と。想像外の展開でした。
夢を描写していく、生活の様子を事細かに描写していく点、タッタッタと読めるのですが、どこか単的に感じてしまいました。夢を描写しているという表現に集中してしまうからなのかなとも思いました。ですが、「僕」のドキドキ感はたっぷりと伝わってきました。
作者さんが楽しんで書かれているなぁという姿がたくさん伝わってきました。楽しむということも詩を書くことを続けることでは、よい要素なので気持ちの片隅に置いておいてほしいなぁとも思いました。今回は佳作二歩手前で。
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急に寒くなりました。あっという間に師走になりました。
急いでいると見失いがちな自分をいたわる気持ち。
どうぞ、あったかく、あったかく。ご自愛ください。