パンダの皮をかぶりたい 松本福広
パンダの箸置きを買った
腹ばいで寝そべっているパンダの箸置きだ
パンダが好きなので しばらく私の機嫌が良かった
ある日 子どもが何気なく口にする
「ねぇ。パンダのしっぽって白じゃなかった?」
そう。このパンダの箸置きのしっぽは黒なのだ
ネットでパンダのしっぽを検索する
パンダのしっぽは白のようだ
それ以来 ひとつのひっかかりが生まれる
まるまるふわふわしている
ひっかかりのないパンダのしっぽがひっかかる
知らなければ気にもしなかったこと
生まれてしまった違和感は箸置きを見る度にひっかかる
ポテトチップスに微かにある 皮由来の黒い粒
普段は気にもしないし 見つけもしない
皮であることを知っていれば 気にならないが
見つけてしまうと気になる あれに似ている
知らなければ気にしなかったこと
気づかなければ気にもしなかったこと
知ることで気にならなくなること
知ることで気になってくるようになること
人には言えない微小さで オナモミより小さいのに
それはしっかりと ひっかかり くっつく
日常の中に生まれる微小な疑問は
日常の忙しさの波に紛れてしまうことが多いのに
たまにその波を泳いでしまう
パンダの箸置きのしっぽは その類のものだ
細かすぎて誰も話す気にもなれない
これが細かいと承知して誰にも話さないのは
常識という皮をかぶって 澄ました顔をしたいからだ
私はパンダのしっぽのように白ではないようだ
※画像はそのパンダの箸置きです。ネットで拾ったものですが参考にはなるかと思います。