守り神 温泉郷
子どもが暗闇の中で聴く
天井のきしむ音
その音の影に
何かがいる
確実に何かがいることを
子どもは知っている
でも
その音はどこから来たのか
それは分からない
そこに何がいるのかを
友達と話し合うこともある
白い幽霊
赤い獣
液状の黒い生き物
巨大なコオロギ様の昆虫
天井のきしむ音を聞く子どもは
眠れない子ども
眠れない子どもが
天井のきしむ音を聞く
それは現実に聞き
夢の中でも聞く
それに名前をつけるといいよ
名前をつけると
少し怖くなくなる
と誰かが言った
子どもは
試しにでたらめな名前を付ける
でも怖いまま……
やがて
子どもは成長してしまい
天井の音を聞かなくなる
聞いても 怖くなくなる
でも
その何かは
心の奥の奥に潜り込んで
じっと動かないでいる
じっと見守っている
そして 必要なときに
そっと顕れて
かつて子どもだった君を
こっそり助けている