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スレッドNo.4914

緋連雀  上田一眞

(昭和十九年初冬 山口・八幡馬場)

空きっ腹を抱えて 窓の外   
冬空を見上げた       *1
寒っむいねぇ〜

頭に冠を乗せた
綺麗な緋連雀が群れている
鳥はいいなぁ
赤い実がいっぱい
街路樹はくろがねもちの実が鈴なりだ


山口日赤(看護婦養成所)に入って
年が明ければまる二年となる
この頃 食料事情がどんどん悪化して
寮の食事は
米粒など数えるほどの芋粥ばかり
大根葉だけのときもある

満足な授業もなく
「欲しがりません勝つまでは」
こんな精神訓話ばかり
包帯の巻き方だけが上手くなった
もう少しで卒業だというのに…

あ母さんはいつ来てくれるかなぁ  *2
差し入れのはったい粉が待ち遠しい
砂糖なしでいいから
お腹いっぱい食べたいよ

友だちも
母のはったい粉を
こころ待ちにしている

噂では沖縄に行かされるようだ
お国のために
戦場を駆け巡る覚悟はあるが
こんな
へなへな腰じゃあ
看護婦として従軍するなど出来っこない


ああ 緋連雀が
胸をいっぱい膨らませ
窓の向こうで啼いている

 ツイッピ ツイッピ ツイッピ
 ヒィ ヒィ ヒィ(がんばれ)

励ましてくれたって どだい無理
お腹と背中がくっついて
動けないもの




(令和六年初冬 山口・きらら浜)

木の葉がさざめく
枝にとまる鳥影
風とともに揺れている

鳥たちの囀りが聞こえる
いのちの音

 ツイッピ ツイッピ ツイッピ
 ヒィ ヒィ ヒィ

冬鳥が啼く
彼岸からの使者だ

啼いているのは 緋連雀
啼いているのは 今は亡き母

ああ 懐かしい
母の好きだった緋連雀

ひもじい思いをした
オデキの出来た私の足に包帯を巻きながら
そんなことばかり
話していた

母を偲んで
今日ははったい粉を食べるとしよう




*1 私の母 山口日赤の看護婦養成所に在籍して
 いた
*2 母の母(私の祖母) はったい粉(麦焦し)を持っ
 て熊毛郡大河内村(現周南市)から面会に来た

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