緋連雀 上田一眞
(昭和十九年初冬 山口・八幡馬場)
空きっ腹を抱えて 窓の外
冬空を見上げた *1
寒っむいねぇ〜
頭に冠を乗せた
綺麗な緋連雀が群れている
鳥はいいなぁ
赤い実がいっぱい
街路樹はくろがねもちの実が鈴なりだ
山口日赤(看護婦養成所)に入って
年が明ければまる二年となる
この頃 食料事情がどんどん悪化して
寮の食事は
米粒など数えるほどの芋粥ばかり
大根葉だけのときもある
満足な授業もなく
「欲しがりません勝つまでは」
こんな精神訓話ばかり
包帯の巻き方だけが上手くなった
もう少しで卒業だというのに…
あ母さんはいつ来てくれるかなぁ *2
差し入れのはったい粉が待ち遠しい
砂糖なしでいいから
お腹いっぱい食べたいよ
友だちも
母のはったい粉を
こころ待ちにしている
噂では沖縄に行かされるようだ
お国のために
戦場を駆け巡る覚悟はあるが
こんな
へなへな腰じゃあ
看護婦として従軍するなど出来っこない
ああ 緋連雀が
胸をいっぱい膨らませ
窓の向こうで啼いている
ツイッピ ツイッピ ツイッピ
ヒィ ヒィ ヒィ(がんばれ)
励ましてくれたって どだい無理
お腹と背中がくっついて
動けないもの
*
(令和六年初冬 山口・きらら浜)
木の葉がさざめく
枝にとまる鳥影
風とともに揺れている
鳥たちの囀りが聞こえる
いのちの音
ツイッピ ツイッピ ツイッピ
ヒィ ヒィ ヒィ
冬鳥が啼く
彼岸からの使者だ
啼いているのは 緋連雀
啼いているのは 今は亡き母
ああ 懐かしい
母の好きだった緋連雀
ひもじい思いをした
オデキの出来た私の足に包帯を巻きながら
そんなことばかり
話していた
母を偲んで
今日ははったい粉を食べるとしよう
*1 私の母 山口日赤の看護婦養成所に在籍して
いた
*2 母の母(私の祖母) はったい粉(麦焦し)を持っ
て熊毛郡大河内村(現周南市)から面会に来た