〇×扉 佐々木礫
〇✕扉が目の前にある。〇の扉はとても大きく開かれていて、皆がそこに吸い込まれていく。たまに、不敵な笑みを浮かべた男や、泣きながら速足で歩く女が、一回り小さな✕の扉を開けていく。僕はその横の、もっと小さな非常扉のノブを引き、がらりとした暗い通路へ足を踏み入れた。点滅する蛍光灯、置き去りの段ボール、羽虫と蜚蠊、砂利と埃。僕は意味もなく咳ばらいをし、そこにあるものを手帳に書き留め、自分の足音のリズムを聞いて、生きていることを噛み締める。少し、ほんの少し、通路の奥から吹く風を肌に感じながら。