時間の塗り絵 温泉郷
彼女によると
時間にも色があるんだそうだ
心を失くしている眼には見えない色
時間が早く過ぎていくときは
決して色は見えないんだそうだ
時間をゆっくりとよく見てるとね
少しずつ 色んな色が浮かんでくるのよ
色が付いていないところも
見ていると色が付いていくの
塗り絵をしている感じね
時間は 不安定な蝶のはばたきのよう
無数に飛び交う粒の流体
ときには
線や面のように直線的な鋭さが現れる
急に膨らんだり 縮んだりもする
触れるようで触れない
逃げてしまえば もうつかまらない
でも 首やふくらはぎの後ろにあったりする
そんなふうなものらしい
そこに ほんのりと
色がついているのよ
時間の色が見えるようになると
その色彩があなたの色
好きでも嫌いでもしかたない
見える?
あなたに?
見えるわけないわよね
彼女はそう言って
去っていった……
いまでも 時間の色は見えない
時間の色を見ようとすると
時間は不規則に
ゆっくりと流れはじめる
もう少しで
時間の色が
見えそうに感じるときもある
その色はきっと
彼女の色とは少し違うんだろう
時間の色が見えるまで
ゆっくりと
おだやかに待てばいいのよ
彼女はそう言って
出ていくときに
妖精と魔法の塗り絵を
プレゼントしてくれたのだった