MENU
932,836

スレッドNo.4927

穴  上田一眞

地面に穿った井戸に似て
私のこころにも
深く深く抉られた
穴がある

その存在に気づいたのは
いつ頃からか…
幼い時分だ

中はブラックホールのごとき
欲望と情念渦巻く
モノクロの混沌世界

清く正しく生きるのだと
己に恥じることのないようにと
いつも
穴の存在を恥じ
蓋をした
無いことにしようともした
でも土壇場ではいつも穴が顔を出した  

 破廉恥
 嫉妬心
 自負心
 名誉欲

穴はアメーバのごとく自在に姿を変え
めくるめく
倒錯の世界をかたどった
ああ 無限に続く煉󠄁獄




裏庭にあった古井戸
赤く錆びた手押しポンプが鎮座していた

石を踏み
井戸端に座り込んで井戸の中を見ると
輪郭しかない顔が写っている
影絵のようだ

水鏡に写るおまえは誰?
私の化身か
なぜ顔なしなのだ
邪で不埒な奴め!

井戸に〈孤独〉を投げ込んだ
ぽちゃん と
平べったい音がした
でも
こころの井戸は何も応えない

顔なしが
美味しい美味しいと
食べてしまったに違いない

きっとそうだ




ある冬の日 かみさんに
こんなことを言われた

 私が気づかないとでも思っていたの
 あなたの中にある闇
 暗くて深い穴
 古井戸

 あなたが何をしても駄目よ
 たとえそれが文学だとしても
 穴に放り込んでも
 無駄よ
 埋まりっこない

 あなたは
 サイコパスだもの!




かみさんの言葉に
喫驚の声を漏らし…句読点となる
絶句し
滂沱の涙が溢れ
おのれの性(さが)に身が凍った

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top