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スレッドNo.4927

穴  上田一眞

地面に穿った井戸に似て
私のこころにも
深く深く抉られた
穴がある

その存在に気づいたのは
いつ頃からか…
幼い時分だ

中はブラックホールのごとき
欲望と情念渦巻く
モノクロの混沌世界

清く正しく生きるのだと
己に恥じることのないようにと
いつも
穴の存在を恥じ
蓋をした
無いことにしようともした
でも土壇場ではいつも穴が顔を出した  

 破廉恥
 嫉妬心
 自負心
 名誉欲

穴はアメーバのごとく自在に姿を変え
めくるめく
倒錯の世界をかたどった
ああ 無限に続く煉󠄁獄


*

裏庭にあった古井戸
赤く錆びた手押しポンプが鎮座していた

石を踏み
井戸端に座り込んで井戸の中を見ると
輪郭しかない顔が写っている
影絵のようだ

水鏡に写るおまえは誰?
私の化身か
なぜ顔なしなのだ
邪で不埒な奴め!

井戸に〈孤独〉を投げ込んだ
ぽちゃん と
平べったい音がした
でも
こころの井戸は何も応えない

顔なしが
美味しい美味しいと
食べてしまったに違いない

きっとそうだ


*

ある冬の日 かみさんに
こんなことを言われた

 私が気づかないとでも思っていたの
 あなたの中にある闇
 暗くて深い穴
 古井戸

 あなたが何をしても駄目よ
 たとえそれが文学だとしても
 穴に放り込んでも
 無駄よ
 埋まりっこない

 あなたは
 サイコパスだもの!


*

かみさんの言葉に
喫驚の声を漏らし…句読点となる
絶句し
滂沱の涙が溢れ
おのれの性(さが)に身が凍った

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