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スレッドNo.4932

宝石  相野零次

男女が数名 そこにいた
宝石はひとつしかなかった

最初はおだやかな話し合いであった
だんだんと口調がきびしくなり
身振り手ぶりも激しくなった

一名の女が 男のほほをはたいた
はたかれた男は女の髪をひっぱった

そこからは無残なありさまだった
言葉などなしに 暴力がふるわれた
最初は男が優位だったが
女も歯をたてたり爪でひっかいたり
手段を選ばなくなると
眼に見えて手加減がなくなっていった

やがて殺意がはっきりと加わっていくと
数名の男が優位にたった

明らかに体格が他のものを上回っていた
血まみれの三名の男が残った
実力はほぼ互角のようだった
格闘技の経験があるのだろう
傷も他のものより浅かった

簡単に勝負はつかなそうだった
互いにけん制しているようだった
沈黙は突如やぶられた
打撃をくらいうずくまっていた
女のひとりが男のひとりの足に思い切り嚙みついたのだ
男はうめいた
チャンスとばかりにもう一人の男が動いた
足にくらいつかれた男の顔面に思い切り拳をふるう
噛みつかれた男は意識を失った
打撃を加えた男に隙が生まれていた
その有り様を見ていたもうひとりの男は見逃さなかった
強烈な回し蹴りをはなった
拳をふるった男のあごを直撃した
それで勝負は決した
まだ足に歯を立てていた女の頭をあっさりと踏み抜くと
動けるものはもう回し蹴りの男しかいなくなった

男は返り血をあびて真っ赤になった宝石に
手を伸ばすとうれしそうに血をなめた
これひとつでどれだけの価値があるかわからないが
殺人さえも厭わないことから高い価値がうかがわれた

男は宝石を持ってその場を去った
数名の男女の苦しんでいる声が残った
断末魔の叫びをもらすものもいた
糞尿をもらしているものもいた
地獄絵図だった

どうしてこうなったのだろう
なぜみなで分け与えることができなかったのだろう
紙幣に交換して平等に分け与えることもできたはずだ
宝石が置かれていた台座に
文字の描かれたプレートがついていた
そこにはたった一言の文字が描かれていた
「勝者」
宝石の名前かも知れなかった
勝者のみに託されるという意味かもしれなかった
それがこの惨劇の答えかも知れなかった
あくまで想像の域である

そのあと男女はどうしただろう
宝石はどうなっただろう
やがて油で灯されていた室内の明かりは消え
うめき声も消え
沈黙だけが残った
その後の男女と宝石の行方を知るものはいない

死んだ者も生き残った者も哀れだった
宝石を手にしたものが勝者となったのだろうか
宝石が本物ならばそう言えるだろう
偽物かもしれなかった
それはもうこれ以上語れるべきものではなかった

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