ヒーロー 相野零次
空が落ちてくる
僕の真上から
僕は両手を広げてそれを受け止める
重い 足がぷるぷると痙攣する
誰か手伝って
誰もいない
みんなどこいった?
空が落ちてくる
僕の真上から
僕は支えきれずに
空の上へと落ちていく
水平線が真上に青空が真下に
ぐるぐると回転する雲
空をどこまでも昇っていく
あ、やっと人を見つけた
向こうも僕に気づいた
指さしている
飛行機が用意された
猛スピードで飛んできた
僕のためにパラシュートを用意してくれたらしい
ありがたいことだ
僕はパラシュートを背中におぶって 広げた
地上へむかって
ゆっくり落ちていく
ようやく重力に従う気になったらしい
地上には人がたくさんいる
救急車や消防車もいるパトカーもいる
僕 悪いことしたのかな
みんなおさわがせしたね
地上へゆっくりと降りた
パラシュートがふんわりと縮む
ただいま
次の瞬間
地上が起き上がった
眠っていた地上が眼をさましたのだ
大変だ!
大急ぎでそこから離れる
僕は怪我していなかったのでパトカーに乗った
地上がめりめりと剥がれていく
空がぐんにゃりと曲がっていく
地上は一人の大きな
とてつもなく大きな巨人だった
大空を抱えて巨人は飛び立った
宇宙へ向かってジャンプした
どうやらみんな逃げきれたみたい
巨人の抱える空に人はいなかった
でも鳥や牛さんは見えた
途中で重力に惹かれて落ちてきた
竜巻があちこちで発生していた
大雨が降ってきた
あらゆる天変地異が同時に
僕らの地上を脅かす
巨人は空から僕を見て笑った
その顔はなんと僕と瓜二つだった
僕が巨人? このパトカーは?
パトカーなんてなかった
最初から僕は巨人だった
何が何だかわからなくなってきた
僕はこの古くなった地上を入れ替えるために
やってきた未来の人間だったんだ
巨人は仮の姿
本当は全身タイツを着た
ヒーローショーのお兄さんだ
そう僕はヒーロー
過去の汚れた地球を綺麗な地上に入れ替えに来たんだ
僕の仲間も今頃 世界各地で活躍している
僕はユーラシア(アジア・ヨーロッパ)、仲間の一人はアフリカ、他にも北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極の6大陸を入れ替えに来た
汚れた地球をまっさらにするために
一から立て直すのは大変だけど
また別の役目を持った仲間が来るから
大丈夫だよ
僕らは巨人族
ときどき台風や津波で地球を掃除してきた
事故や死者もあったけど
全部避けることはできないんだ
また作って生まれ変わってがんばって
僕らもがんばるよ
月が見えてきた
僕はいったんユーラシア大陸を月に降ろす
クリーニングしてまた戻しに行くからね
今度の満月の夜に
空が落ちてきた
僕は両手をあげた
今度はちゃんと支えれた
綺麗になった地上をゆっくりと
戻すために
僕は月から地球へ
と飛び立った
地球はどこまでも青く澄んでいた