いつもとちがう朝 人と庸
いつもどおりの朝
いつもどおりの交差点
ここに集まる人たちは
みな待っている
なにかがかわるのを
昨日よりすこし寒い
昨日よりすこし厚着になった
それだけで
世界はずいぶん かわって見える
「ここでの役目を終えたから
わたしはひとりで旅に出ます」
そう言ってあなたは行ってしまった
旅の先で
あなたに大きな大きな波が打ち寄せる
波の襞が幾重にも幾重にも
あなたにせまる
それを遠くから
何年も先の遠くから
ながめているものがいる
信号がかわる
みないっせいに歩み出す
ぶつかりそうになり 立ち止まる
すぐに動けず 立ち尽くす
わたしは波を割いている
(横断歩道のしましまは
打ち寄せる進行と停滞なんだろうか
みな先に行ってしまった
わたしとぶつかりそうになった人も
雲のように旅する人も
街路樹の葉の色も
(役目があるのはしあわせなのだと
「休日」が物知り顔で話していた
(その言葉をほそくほそく縒って
針刺しにそっと突き立てておこう
いつもどおりの朝
いつもどおりの交差点
今日はうまく渡れるだろうか
「ここに役目があるので
わたしはまだここにいます」
凪ぐことのない毎日で空だけが
立ち止まった者を待っている
自身の進行の先が
その日でもっともうつくしく染まる時間まで
そこには時おり
あなたの詩(うた)も打ち寄せている