評ですね。12月20日〜23日ご投稿分 雨音
「41回目の結婚記念日」津田古星さん
津田さん、こんばんは。温かいお正月をお過ごしになっているでしょうか。
この作品、なんと言っても良いのが41回目という特別な「〇〇」婚式ではない日を選ばれたことだと思います。一連では紙婚式からは始まって、このご夫婦の歴史をなぞっていきます。さらりとまとめられていますが、この間にはいろいろなことが年月としており重なってきたでしょう。そして、二連では41回目の記念日がいつものようだったこと、「少しの諍いと 少しのご馳走があって」という一行がとても大きな効果を見せています。今日が最後の日だと思って、出し惜しみせず、伝えたいことを伝えておこうという気持ちのありようもとても素敵ですね。
拝見していてやっぱり「ありがとう」は魔法の言葉だと思いました。佳作二歩手前です。
一つ目は二連目を少し整理できたら、と思いました。これは「こんな私の〜」のカッコの部分がとても大切な言葉なので、これを少しきわ立てるために、連をもう少し分けると良いかもしれません。そうすることによって、自ずと余白が生まれていきます。それから二つ目ですが、どこかに一箇所倒置法を使ってみると余韻が生まれていくかもしれません。津田さん、どうぞ試してみてくださいね。新年最初の評の一番最初の作品があたたかい作品で嬉しかったです。
「穴」上田一眞さん
上田さん、こんばんは。お待たせしました。
こちらの作品はとても期待を持って佳作一歩手前とさせていただきます。佳作でもいいのだけど、まだよくなると確信しているので厳しくしました。いくつか気になった部分を書いておきます。あくまでも私が気になった部分ですので、参考までにとどめてみてくださいね。細かい部分よりもこの作品のスケールや勢いを大切にされることが肝要かもしれないなとも思っています。
まず4連ですね。4連を読み直していただけば、私が何を指摘しようとしているのかお分かりじゃないかなと思うので、これは書きません。次が10連です。ここは好みだと思うのですが「こころの井戸は何も応えない」はちょっと書きすぎかもしれません。実はここに入れる一行はとても大切なのだけど私も見つけられずにいます。ただ、この部分が少し矛盾しているように聞こえますので、少し考えてみて欲しいなと提案します。そして、14連です。ここも提案として書きますが、私ならあえて「闇」は使わずにこうします。
私が気づかないとでも思っていたの/あなたの中にある古井戸/暗くて深い穴に
この作品は「穴」が深い闇であることは十分に伝わっています。それが古井戸と呼応していることも十分に伝わっています。イメージもです。ですので、その穴の色やにおい、手触りや温度、そう言ったものを遠くからジリジリと書いていく感じがとても良いです。そのテンションは最初から最後まで張り詰めたものであって欲しいなと思いました。なので、かなり細かく推敲されていくとこれは上田さんにとってはなくてはならない作品に仕上がるのではないかしらと勝手に厳しく書きました。
この作品が実際に上田さん自身のことなのか、はたまた想像の世界のことなのかもわからないし、これはわからなくていい部分です。ただ、今まで色々拝見してきて、お母様のこともお伺いしているので、あのような体験をされた方が心の中に深い穴を持っていたとしてもなんの不思議もなくむしろ自然であり、そして、そのことに小さい頃から気づかれていることに驚きました。これは、想像上の主人公がそうであったとしても同じことです。これは現実か現実じゃないかにかかわらず、やはり上田さんが懸命に描き出した心象風景だと思います。とても力作でとても楽しみです。ぜひ仕上げてください。
「温もり」じじいじじいさん
じじいじじいさん、こんばんは。お待たせしました。
とても素敵なストーリーですね。幼くして天国に旅立ってしまった娘さんからのお手紙が届きその温もりの中で過ごすクリスマス、とても悲しいけれど、その悲しみにスポットを当てるのではなく、娘さんの優しさと親子の愛情の深さにお話の中心があることがこの作品をとても引き立てています。良い作品だと思いました。佳作2歩手前です。
推敲をしていくともっと筋がしっかりと浮き上がって流れが良くなると思いますので、ぜひやってみてくださいね。まず一連の「一方を指差した」ですが、これは、もう少し具体的に場所を書いたほうがいいかもしれません。それによって続いていく二連への流れが良くなります。そして、この二連を声に出して読んでみて欲しいのですが、ここは少し整理が必要のようです。ちょっとやってみますね。参考にしてください。
そこには手のひらほどに折られた小さな色紙/妻の好きな赤と/私の好きな青の二枚だ/小さいと思ったら四つ折りになっていて/妻はそれを開くと涙をこぼし始めた/そして私に赤い折り紙を差し出した/それは今月7歳になるはずだった娘からの手紙だった/拙い字と一生懸命描いたであろう私たちの似顔絵もあった
今、さっと直したので、もしかしたら意図が汲み取りきれていないところもあるかもしれません。じじいじじいさんの言葉でぜひ直してみてくださいね。なるべくシンプルに正確に読者が思い描けるようにという点で直しています。それから7連の三行目ですが、「2人で」の方が良いと思います。「2人は」ですと、これは、視点が私ではなくなってしまうことから、違和感が生まれます。細かいことを色々書きましたが、参考にしていただけると幸いです。
「宝石」相野零次さん
相野さん、こんばんは。お待たせしました。
この作品は長くて、そして、内容もみっしりとしています。とても人間っぽいというか、ストーリーとしては短編小説みたいで読み応えがあります。相野さんらしい個性的な作品でした。その点はとても素晴らしかったですが、佳作一歩手前です。
少し厳しいことを書きます。元々の骨子に相野さんの知識や想像、書きたいものを加えていったのかなと想像していますが、書きたいものや思い描いたものが多かったのだと思います。そして、それを描き切る力も相野さんにありました。これは良いことですし、相野さんの筆力です。ただそのせいで焦点がぼやけてしまったのかもしれません。例えば、争いの様子などはディテールが多すぎると思います。相野さんが勝負のあれこれを本題として書きたかったのだとしたら、これは良いですが、そうではないとしたら、読んでいて面白いことは面白い、けれど、作者が本当に伝えたかったことってなんだろうと考えると、そこじゃないかも?となりました。大事なところを選んでいく、控えるところを控える、という引き算がこの作品には必要かなと思います。
繰り返しますが、長い作品で読ませる力も勢いもあります。それは望んで得られるものですからすごいなと思いました。でもちょっと書きすぎて怖くなかった、というのが正直なところです。この作品は怖くて怖くてたまらないくらい怖くあってほしい、それは血生臭く書いて、ではなくもっと奥深くのところでです。というのが私のわがままな願いです。
「鉄格子の窓」荒木章太郎さん
荒木さん、こんばんは。お待たせしました。夜も更けてまいりました。
これはとても良いですね。佳作です。
全体のストーリーの捉え方もとても良いと思いましたし、書き方の過不足もないように感じます。それから、淡々と描かれているところも、作品のストーリーの刹那のようなものが引き立っているように思います。
鉄格子の窓、というタイトル、特に、しがみついている骨のような何か、この秀逸な一行で始まる二連がとても良かったです。その後もその流れのままに続いていきました。抽象的でありながらくっきりと輪郭が残る作品だったと思います。
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今年もどうぞよろしくお願いいたします。
皆様にとりましてお幸せでお健やかな新年でありますように。
そして、世界中の子どもたちが安心して過ごせる戦争や紛争のない世界になりますように。