初夢 上田一眞
その1
こころの内に垂鉛をおろすと
底なし沼のように深い
闇の世界
そこに棲むのは眼を失くした魚たちだけだ
盲しいた白い魚を追いながら
暗闇に内包するものを
手掴みで確かめる
迷い 妬心 困惑
懊悩 絶望 恐怖
憎悪 敵意 猜疑
憐憫 愛憎 苦悩
こころの洞窟に
石ころのように転がっている
感情の山
ただ こ奴らに質量はない
薄い紙っペラ
こんな言葉に動揺する自分が
不甲斐ない
その2
一人では
生きていくことなど出来るはずもないのに
なぜかこころは独りを志向する
妻も子も いらぬ
友とて いらぬ
私はこころの洞窟を
躓きながらも
静かに 独り歩きたい
書を捨て
ペンを折り
ただ ひたすら歩きたい
洞窟に光明を見つけることができるなら
私の
全てを捧げてよいのだ
**
微睡みのなかから
覚めたのは
夜明け前の時刻だった
まだ薄暗い
それが二つの出来の悪い〈夢〉だと
気づくのに
さしたる時間はかからなかった
令和七年
不本意だが自分らしい初夢だ