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スレッドNo.4980

感想と評 2024年12/27~12/30 ご投稿分 三浦志郎 2025年1/4

今年初めての評です。今年もよろしくお願い致します。


1 荒木章太郎さん 「あたたかい沈黙」 12/27

冒頭佳作と致します。
荒木さん作品の中で、僕は今までの最高度で本作が好きですね。
「沈黙は金」ということわざがあります。この詩はそのことわざを積極的かつ有意義に解釈・翻訳したものと僕は思っています。沈黙することによって、内的には心の整理整頓ひいては心の安定。外的には、防衛・抑止・圧力。「天使」の連が詩的にはとりわけ秀でているように感じます。
案外、この詩は恋愛詩寄りなのかもしれない。「君」との行き違い、ちょっとした諍い。ふと「君」が用いた沈黙。この詩の主人公はそこから何がしかの意義を見出している。そんな詩。
今回は抽象度、難解度をマイルドにして、より伝意性を上げていると思われます。冒頭の感想の所以です。


2 上田一眞さん 「焼失或いは喪失」 12/28

ひと昔前の地方名家の本家は「本家筋」などと呼ばれ、格式があり丁重に迎えられたことでしょう。分家である上田さんは本家に良く仕えている。そんな場面でしょうか。本家のおばあ様は本家だからといって尊大ぶることなく、どころか優しく品位があり、名家のせいか、どこかおっとりしている風情です。そこに情趣を感じさせます。山口県なので、かつて長州藩との関りがあった名家と思われます。おじい様の履歴と収蔵品の重々しさがそれを表していますね。習慣的に「おばあ様」と言い慣わしている点にも環境が垣間見えます。
残念ながら、この詩はタイトルが表す通り、火事の悲劇がメインになります。全焼。人も財産も全て失われた。上田さんの悲しみには察するに余りあるものがあります。慟哭したことでしょう。詩的に響いてくるのは(それから三年の後)のくだりでしょう。当時の悲しみは落ち着いたが「それでも……」といった思いでしょう。鳥の姿におばあ様を重ねているのが印象的。「この地を離れます」は進学とか就職でしょうか?タイトルが事態を雄弁に物語り佳作。実の母上といい、このおばあ様といい、その不幸に言葉もありません。

アフターアワーズ。
大したことではないので、こちらに書きます。「忘れ得ぬ人の一人だ」は意味が重複的で語呂も少し良くないです。「忘れ得ぬ一人だ」か、単に「忘れ得ぬ人」でも可。フィニッシュだけに整えておきたいです。


3 森山 遼さん 「宇宙の私語」 12/29

「宇宙」と「私語」。平文なら結びつきが無いような単語を、詩の妙味を活かして巧みに繋いでいます。ユニークと言えます。タイトルがそうであるなら、本文の思考展開もユニークで暗示的で、すこぶる詩的に仕上がっています。宇宙の起源、そのありようの不思議、宇宙の下に存在する森羅万象の不思議、たとえばそのようなことまで、この詩は象徴しているようにも思えてきます。
4連以降、前連を受けて、詩は希望へと向かいます。最終連は、おそらく希望への言い換えとして解釈できますが、指針を少し変えたのがフィニッシュとして印象的。これは佳作以外考えられないです。うまいですね。

アフターアワーズ。
大したことではないので、こちらに書きます。「そうだ いい」は意味的・リズム的にやや不安定な気がしました。「そうだ それでいい」にすると、リズム的に落ち着くし、ずっしりとした意志が伝わる気もしますね。


4 相野零次さん 「ヒーロー」 12/29

前作「宝石」の実作と雨音さんの評を拝読しましたが、僕も概ね雨音さんの意見に賛成です。
「宝石」はまだしもテーマ・場面がコアでしたが、本作「ヒーロー」では、正直、何が書かれているのか、僕にはさっぱりわかりませんでした。
正月早々、キツイことを言って申し訳ないが、書き過ぎ、拡散し過ぎ、としか思えません。
特に「何が何だか~」の連以前に、それを感じました。

もう少し優しく言うならば―
筆力もあり、想像力もあるのですが、(足し算・引き算しながら)それらを有効に組織立て、テーマとして一篇に仕上げる力が弱い―といったところでしょうか。
例えば、ストーリーとして、よりコアにするには「何が何だか~」以降がテーマとしては立っています。この部分を肉付けして書いた方がいいという意見です。それ以外は余事。
あと前半部分。これは私見なので、スルーされて一向に構わないのですが、―僕もフィーリングで思っていて言葉にはなりにくいのですが―ファンタジーといえど、その土俵内で、つじつま合わせ、理にかなっていないとまずい。そんな気持ちはあります。長いものを書く時は、いかに読み手を納得させ続けるか、飽きさせないで読ませるかの工夫が必要でしょう。相野さんは標準サイズでは、よい味わいがあるのですが、長編は少し熟慮と小まめな推敲が必要でしょう。佳作二歩前で。


5 人と庸さん 「いつもとちがう朝」 12/29
  
これも冒頭佳作と致します。この詩の個性であり長所は“現実の近似値にある幻想”を描いている点だと考えられます。近似値幻想に舞い上がるに、交差点と横断歩道がその滑走路になるかのようです。
「役目を終え→旅」「役目がある→今日を存在する」あるいは「歩み出す、立ち止まる、立ち尽くす」。
これらは正・負共に吞み込んだ人間の営為と言ってもいいでしょう。この詩には、もうひとつトピックスがあって、僕は以下のように感じています。
「日常は常にいつも通り」VS「日常とは細部において同じ日は一日とてない」
人間の営みは、このせめぎ合いの中で推進される、そんなことも、この詩から感じることができるのです。そういった事情をタイトルも予感させるのです。総括するならば、人間社会を、現実⇔幻想のウエルバランスで浮き彫りにしたと言えそうです。
拡大解釈すると新年にも相応しい気がします。


6 静間安夫さん 「日本酒のPR―食中酒を代表して」 12/29

「日本全国酒飲み音頭」というものがございます。全ては歌えないが聴いたことはあります。
試みに時節柄の歌詞を書いてみます。
「12月はドサクサで酒が飲めるゾ~~1月は正月で酒が飲めるゾ」
お酒を代表して登場の日本酒くん。非常に前向きにPRしてますね。料理の引き立て役、味の対応のTPO、健康面への役割、さらには、いにしえまで遡っての由緒・その気高き使命・人々の愛着、現代における「飲みニケーション」の効能まで。全ての側面、網羅。これで決まり!この詩の気分を、より味わう為に僕も飲みながら書いております。この詩は酒もさることながら、静間さんの、酒に託しての年末年始のご挨拶と受け取りました。よって評価は割愛させて頂きます。では、乾杯を! カキン!


評のおわりに。

今回の年末年始は土日のポジションが絶妙でありました。その恩恵で、正月続く。あと二日。
ではまた。

編集・削除(編集済: 2025年01月04日 10:50)

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