MENU
1,446,021

スレッドNo.4992

息子の帰省  津田古星

「暮れの三十日に日帰りで行くよ」と電話があって
息子が三ヶ月ぶりに帰って来た

高校卒業後 大学 就職 転職と二十年京都に住んでいたが
一年前に再び転職して 
電車で一時間弱の県内に引っ越してきた
前の職場にいた時は盆も正月も連休もなく勤務で
その上 感染症もあって四年も顔を見なかったが
この一年は数回帰って来るようになった
会社は転職前と同業種ではあるが
仕事内容も環境も変わり それも慣れて
落ち着いた暮らしをしている様子
正月二日に出勤だと言うが
その他の年末年始の休日は
資格試験の勉強に充てるのだろう
文系だった息子には縁の無かった
電気や設備の試験を次々と受けているが
それも苦にならず 意欲的なようだ

大学を卒業して
最初の会社で人間関係に悩み 三年余りで辞めた後
再就職がなかなか決まらず 貯金も底をついた時
やっと決まったアルバイト先で
一年後に契約社員 三年後に正社員となり
会社に認めて貰おうとしたのか 責任感の強さからか
あるいは遅れを取り返そうとしたのか
仕事は何でも引き受けて
きちんとした昼食も摂らない生活を続けていた
夫と私は
会社に都合良く使われているだけではないか
身体を壊さなきゃいいけどと
危惧を抱いても 見守るだけだった
だから 突然
「転職するよ」と聞いた時は驚きもしなかった
若い時の苦労は買ってでもと言うが
病気になる前に気がついて良かったし
もうそんなに若くもないのだから

息子が来ると
夫は子供のように
自慢の切手や鍔の収集品を見せ
息子はうるさがりもせず相手になる
私は「夕ご飯も食べて行って」と支度して
三人で食卓を囲む

夜 息子が帰る時
「それでは良いお年を」と言う
うん 良いお年を
違う世界の扉を開き
新しい時を生きる息子の一年が
穏やかな年でありますように

編集・削除(未編集)

ロケットBBS

Page Top