異臭さわぎ 荒木章太郎
近所で異臭騒ぎがあった
バイト先で知り合ったエタンは
「issue」と聞き間違えた
この町では、蓋をして
匂いごと封じ込めるのだと伝えると
ぶつかり合わなきゃ
終わらないだろうと怒っていた
「だから君の町は瓦礫の下敷きに」
そう言い返したら
彼の涙が静かに匂う
言葉の間に生まれる亀裂が
触れられない距離を作っていたのか
エッジの効いた安全神話と消毒液の臭いが
その裂け目をさらに広げたのか
思わず彼を抱き寄せた
霞がかった朧月夜に
ほのかな匂いが漂い溶ける
鋭さを持たず、ただ静かに馴染む
生まれた時から沁み込んだ
匂いと汚れを一緒に清める
なんて乱暴な風習だろう
もうエッジの効いた夜は御免だ