存在 静間安夫
冬枯れの庭に面した
鎧戸を開け放った瞬間
柔らかい朝日に照らされた
目の前の地面で枯葉が踊り
かすかに
土ぼこりが舞い上がった
そして そこはかとない
羽ばたいたような音…
鎧戸が突然開けられたのに驚いて
確かにそこの地面にいたはずの
何かが飛び去ったのだ
ツグミだろうか?
それとも他の小鳥だろうか?
しかし
飛び去ってしまった今
それが何だったかは
永久にわからない
ただ、何かが
存在していたことだけは
間違いない
もしかしたら
それは
神だったかもしれず
あるいは
わたしが愛した人の
面影だったかもしれない
いや
幼いころの
わたしのようにも思えたし
あるいは
過ぎ去りゆく
時の後ろ姿を
垣間見たのかもしれない
こうして
いくつもいくつも
「…かもしれない」
を綴っていくのは
たしかに
とりとめのない空想だけど
不思議に新鮮で
久しく無聊のうちにあった
こころを慰めてくれる
そして
わたしが
こうして気ままな想像を
楽しむことができるのも
あのとき
飛び立った何かが
その姿を一瞬にしてくらまして
自らを暗示するに留めてくれたから
きっと
謎を残すこと、
余韻を残すことこそが
その存在を
忘れ難くするに違いない
大切なのは
正体を現さず
羽ばたきの音だけを
響かせることなのだ