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スレッドNo.5021

妄想の海  相野零次

男は日々 何もしたいことがなかった
だから男は 妄想の海の底に沈んでしまいたかった
だがそれは出来ぬ相談だった
どう足掻いても浮き上がってしまうのだ 目が覚めてしまうのだ
意識の覚醒は男にとって喜びではなかった
いつまでも微睡んでいたかった

詩を書いたり読んだりすることが男は好きであった
脳の深い底の方が刺激されるようで
その感覚が心地よかった
しかしそれも一日中できなかった
とても疲れるからだ
疲れたなら休めばよい
詩を書いては読んでは疲れて眠る
それが男の休日の主な過ごし方であった

妄想の海へ飛び込む毎日のなかで
男は何かを考えている
その何かが男にはわからない
未知なるものが秘められている
その秘められた何かを掴むことこそが
妄想の海での役割だ

男には他の生きとし生けるもの全員がそうであるように
この世で与えられた役割を背負っている
その重みからは逃れられない
だからこそ妄想の海へ沈むことができるのだ
その重みが無ければ男には永遠の覚醒が待っているのだろう
それはあるいは死と呼べるものかもしれない

男は生きている
役割を背負って生きている
そのなかで妄想の海へ飛び込むことは
男のささやかなしかし大いなる喜びなのだ

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