蛙先生 上田一眞
あ〜
男子はこれから溜め池に行って
食用蛙を採って来るように
一人二匹以上な
先生はみなに指示した
理科(生物)の授業で使う
実習材料の調達だ
捕まえて来た
大きな食用蛙をクロロホルムで眠らせ
解剖に供した
蛙の腹にメスを入れると
腹の中は複雑な迷路のようだ
心臓がドクンドクンと動いて
生命の躍動を示す
蛙の鼓動とシンクロ
自分の心臓もドキドキして
手が震えた
生命をわが手で扱う 怖れ
神の領域に踏み込んだ
畏怖の念
ギャーと
校庭で黒い鳥が鋭い声をあげた
天に帰る蛙の魂を
弔うようだ
誰もが蛙の死を哀しんだ
*
よし そこまで
蛙はこの容器に入れて…
いきなり先生は
バケツに集めた蛙の胴体を鷲掴みして
バキバキとねじ切った
そして
太ももの皮を剥ぎ
用意していた七輪で焼きはじめた
みな あっけに取られ
先生 そりゃ酷いよ!
と詰(なじ)った
馬鹿を言うな
ひとつの命を奪ったんだ
責任を持って食べてあげなくちゃいかん
それに
こんなに美味いものはない
みんなも食べてみろ
先生は炭火で蛙を焼き
ひっくり返して醤油をかけ
齧りついた
口から蛙の足が出ている
それを見て
眉をひそめる者
真っ青になって見ている者
吐きそうな顔の女子もいる
勿論
食べる者は誰一人いない
先生は蛙の太ももをほうばりながら
あ〜美味いなあ
このことは親御さんには言わないように
他言無用
いいな ガハハ!
先生の豪快な笑い声が
理科室中に響いた
食料事情の悪い時代を生き抜いて来た
蛙先生
逞しさの片鱗を垣間見たのは
舌鼓を打った
まさにその瞬間だった