評、1/3~1/6、ご投稿分。 島 秀生
年始に言った、今年の願いの一つ、ガザ停戦が実現しようとしている。
早速、発効が遅延しているし、まだ油断ならないのだが
このまま両者ともに合意を履行し、ステップ3まで進むことを願い、見守りたい。
それにしても、ネタニアフ首相をはじめとしたイスラエルの右派は、ガザをイスラエルの完全統治下に置くことを目標にしていたので、よく撤退に応じたものだと思う。
和平仲裁に努力した関係各国に謝意を述べたい。
●荒木章太郎さん「異臭さわぎ」
これねえー、いい感じを纏った作品ではあるんだけど、結局「君の町」がどこかわからないんです。
「だから君の町は瓦礫の下敷きに」
が、この詩のキーとなる重い言葉に思うのだけど、そのキモとなる「君の町」がどこかわからない。
まず「安全神話」の言葉だが、少なくとも日本人が一番先に思うのが、福島第一原発事故のことであり、「原発は絶対安全」の安全神話が崩れた話であり、すると「ガレキ」とは東日本大震災を指してるのかな?となる。仮に「安全神話」を最大限広い意味にとってみたとしても、「災害や事故が起こらない」と過信していたという系の意味にしかならない。
一方、1~2連からの脈絡から追うと、
ぶつかり合わなきゃ
終わらないだろうと怒っていた
のフレーズからは、戦いに発展した系に読める。するとガザ地区など、戦闘による「ガレキ」を思うことになる。
つまり、前者で追うと後者が矛盾するし、後者で追うと前者が矛盾してくる。結局「君の町」が、どこを指してるのか、わからない。
加えていえば、「安全神話」と「消毒液」の関係もわからない。
前フリなしに「消毒液」を持ってこられても、医療現場しか想像できない。少なくとも「安全神話」と対になる言葉と思えない。ジャンルが違いすぎている。
もちろん「エタン」という名も外国人っぽいです。
これらを総合して、「君の町」を特定するのは不可能と思える。
どれかが間違っているか、あるいは最初から特定せずに、どこにでも通用させようとしてアバウトにしたことが、裏目に出てる作品と思える。
意見をはっきり言う国民性の国は多いが(日本人が言わなすぎなのだけど)、「瓦礫の下敷きに」の言葉はとても重い言葉なので、アバウトには使えない。混ぜこぜには使えない言葉なので、国を特定して、あるいは事件を特定して話した方がいいです。
この詩、場の描き方は、とてもステキな雰囲気を持ってる詩で、友情すら匂ってくるのだけど。なので、とても惜しいのですけれど、何か大きな間違いを一つやらかしてる感じで、読む側の立場で言うと、話の芯に入れずに、ひどく遠巻きに読むしかない作品になっているのです。
現状、半歩前にとどめますが、ミスが改善されれば、ぐっと良くなる、化ける作品に思います。
●温泉郷さん「空間概念」
あれですね、まずもってキャンバスの色が何者なのか?ってことがあるんですが、切り方も真ん中は、左に対して、ただ長くするだけで、穴の隙間を広げたものであるのに対して、右は真ん中に対して、角度をつけて深く切ることで、穴をさらに広げている。ただし、上と下の水平位置は、真ん中と右は、ほぼ同じです。
だんだん穴の隙間を大きくしていっているのがミソの作品なので、第一印象は「ボリュームマーク」にも見えてしまうんですけど、複数の線のものは、「期待」という単語の複数形でタイトルされてるということですから、穴の大きさから、期待の度合いが違う3つ期待、ということになるんでしょうね。
あと、邪推をすれば、この芸術家は、絵画とか彫刻とかの、芸術の垣根を取っ払いたいという思考の持ち主でもあったそうなので、「キャンバスの彫刻化」という意味で、切って見せる芸術化を図ったのかもしれないという、単純解釈も成り立ちます。
私、この絵を初めて見たので(大原に行くと、モネの睡蓮で圧倒されたところで、わたし的には終わりになるので、そっちの展示室にはたぶん行ってないんだと思う)、以上が初めて見た私の印象になりますが(全然違ってるかもしれませんが)、
しかしながら、この詩の本当の主題は、この絵のことじゃなくて、謎の小学生なんじゃないんでしょうか?
この傷ついた小学生は、たぶん作者ですよね。この詩は、今の作者が、過去の自分に語りかけてる詩なんでしょう。だから、最後にちらっと顔を出したりしたのでしょう(赤の他人じゃないから、折りあらば、いつでも出てくる)。
読者としてそれに気づいた時の、ハッと感は、この詩のとびきりのどんでん返しでした。
名作を。
絵の解釈は人それぞれ自由なものですから、そこは問いません。
まあ、ヴァリエーションとしてアリ、という意味での代表作入りとしますかね。
●津田古星さん「息子の帰省」
うーーん、文系の人間てね、大学で習ったとおりの道に進めることって、あんまりないんですよね。社会に出てからなんらかの畑違いの勉強をし直すハメになることがままあるんですけど、電気・設備とはまた思い切りましたね。
そっちの方は資格を持ってる・持ってないで、できる仕事とできない仕事ができてしまうんで、資格を持っておかれた方が、社内で安定した地位を得られていいと思いますよ。たぶん前職で、それが身に染みるようなことがあったんじゃないですかね。会社って、一所懸命働く人間よりも、資格を持ってる人間をとにかく上に扱うところがありますから。
それにしても、卒業来、一度も親を頼らず、ずっと自立してられるんでしょう? そこがまずもって偉いです。上出来の息子さんですよ。
詩は息子さんのここまでを駆け足で追うとともに、愛情をもって見守っている親のまなざしがわかる。(夫の収集品自慢に「うるさがりもせず相手に」なってくれるなんて、なんていい息子さんなんでしょう。)そして最後はエールで息子さんを見送ります。
おまけの名作としましょう。
3連の後ろの方なんですけど、詩って、あんまりセンテンスを続けない方がいいのです。そこそこで終止形を置いていった方がいいのです。
センテンスを続け過ぎると、読み流される元なんです。そうでなくて、詩はひとつ、ひとつ、意味を置いていった方がいいのです。だから、切っていった方がいいのです。
身体を壊さなきゃいいけどと
危惧を抱きつつも 見守るしかなかった
だから 突然
「転職するよ」と聞いた時も驚きはしなかった
若い時の苦労は買ってでもと言うけれど
病気になる前に気がついて良かったとおもう
それにもう そんなに若くもないのだから
これぐらいにしておかれた方がいいかな、と思います。
特に、その前で体の心配をしきりにしてますから、それの呼応として「病気になる前に気がついて良かった」の行で、一度決着をつけた方がいいです(次の行に続けない方がいいです)。
そこの部分、一考してみて下さい。
●佐々木礫さん「重明は毎夜、夢を見る」
これは何かモデルとなったものがあるんだろうか?
1つ1つのパートの映像力はとてもあるんで、全体の統一性はともかくとして、パートで読める。荒削りだけど、概要として良しとします。努力賞も含めて、秀作としましょう。
いくつか言います。
まず第1パートは、「黴びた教室~」以降は改行しましょう。
すると、
「いない。シにたい」
そう言って、目を閉じた。
と
「も少し生きて、走馬灯にでも浸ろうか」
と、俺は言った。
が、対をなすものとなって、第1パートとしての構成が取れます。
第3パートなんですが、
「目を見開いて、俺は~」以降は、連分けにしましょう。
というのは、「俺は若者だった。」時の部分と、今の連分け以降の中学生の様子とは、明らかに別の時代と思えるので、分けた方がよい。
すると、全体構成が、「年老いた」パーツ、「病人」のパーツ、「若者」のパーツ、「中学生」のパーツ、まとめもしくは結論のパーツと、5つのパーツに分かれる。
すると、まとめを除き、詩全体が、時計を逆回しに進行したものと見なすことができる。
なので、詩全体が時計を逆回しに展開しているという前提のもとに、
「懐中時計」や「秒針の音」「西の山から太陽がのぼる」などのフレーズを、時間を逆回しにして描いていってることを暗示するものとして、(一部分だけに登場させるのではなく)各パートに分散して登場させていった方がよい。
それで全体構成が取れます。
最低限、以上のことはやっておかれるといいと思います。
●上田一眞さん「初夢」
大晦日になるといつも、「除夜の鐘をついて、百八つ煩悩を・・・」って話が聞こえてくるわけですが、あれ、百八つの分類の意味はわからなくとも、いくつかの煩悩は間違いなくあるなあーと自覚する日でもありますね。
それの続きで、「その1」のような夢を見てしまったかな?と勝手に想像したりしました。12個、よく拾い出されましたね。(私は12個かどうか、わからないや)
心の闇底を表現するに、1~2連の深海魚のようなイマジネーションがステキです。
その2について、
私も実は、一人でポツンとしてる時間が一番好きなんですけどね。でも、本当の一人にはなれない。以前、シーズンオフに初めての山に一人で登山して、途中まったく誰とも出会わなかった時、むちゃくちゃ心細かった(案の定、途中で道を間違えて遭難しかけるし、あの頃は携帯もなかったし)。フィールドで実践すると、よくわかりますね。人家もない初めての地を、途中誰とも出会わず、延々歩いていると、だんだん不安が襲ってきて、おれの孤独力って、この程度のことだったかと思い知ります。
「人は、一人では生きていけない」は、もちろん社会的にそうなんですけど、心の問題としても、本当の一人にはなれない。
その2の話は、道を極める求道者の話にも読めるので、これはこれでアリですが、もし光明が見つかるとしたら、「一人で」ではないんじゃないだろうかと、わたし的には思いました。これは評ではなく感想として。
もちろん作られた<夢>なのですが(ヒントくらいは本当にあったのかもだけど)、「夢」のポジションであれば、理屈ぬきに「夢」なので、むしろ願望という受けとめで、伺っておきましょう。ポイントは「自分らしさ」ということですね。
その1の最初の3連、特に良かったです。全体構成もおもしろかった。
秀作プラスを。
●松本福広さん「信じたいことを信じる」
うーーん、今は大店立地法の申請が滞るなんてことは、まずないと思うので、違うんじゃないですかねー 今は大型ショッピングモールは、本当の大都市の中心部か、郊外だったら、10KM圏に充分な住宅地人口を抱えてる高速の出入り口近くでないと、難しいんじゃないですかねー
そこまで大きいショッピングモールじゃないとしても、国道沿いで、キーテナントにユニクロは必須でしょう。
駅近ってだけなら、たぶんマンションじゃないですかねー ただ、住宅の一戸建てなら、整地さえすれば、さっさと売り出すので、住宅一戸建ての宅地にはしないようです。
作者の言うことは正しいと思いますよ。
噂の一人歩きは、あるあるですね。空気読めったって、違うもんは違うだろって話ですが、けどまあ、女性同士の人間関係も難しいんで、貴重なコミュニケーションネタを潰すなって意味もわからんでもない。内心思ってても、ここは黙っておくのが賢いかも、の社内の人間関係場面が想像されますね。
ほんの断片なんですけど、なんかほわわーんとした社内ムードを味わわせて頂きました。
作者的にはたぶん、「噂の一人歩き」例として書かれてると思うんですが、私は社内ムードのほわわんの方が楽しかったので、意図と違うかもしれませんが、秀作とします。
4連の、「皆行ってるよね?」と
6連の「期待しているか」の、ミスタッチだけ直しておいて下さい。