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スレッドNo.5054

漫画  相野零次

マントを羽織った子供が空を飛んでいた
全身黒タイツの男が美女を追いかけまわしていた
飛行機からパラシュートで人語を喋る鳥が飛び降りていた
ここは漫画の世界だった
水たまりから大きな人型のスライムが立ち上がり
雨の中から二次元でペラペラのライオンが吠えた
何もかも無茶苦茶で理不尽だったが
漫画なのでそれは許された
突然
空が斜めに引き裂かれた
老人の顔をした大きなゾウも巻き添えを食らって引き裂かれた
老人のゾウは絶命した
この理不尽な漫画の世界にも命は存在した
引き裂かれたのは空ばかりではなかった
地面も家も公園も学校も全て引き裂かれていった
絶叫しながら逃げ惑うデタラメな住人たち
一体何が起きたのだろう
巨人だ
とてつもなく大きな巨人が この漫画のような世界を
いや この漫画そのものを引き裂いていたのだ
よほどこの漫画がつまらなかったのだろうか
巨人は憤慨しながら本をばらばらに引き裂いた
ばらばらにされた本で暮らしていた命はほとんどが失われた
ああ なんということだろう
巨人はそれだけでは怒りが収まらなかったのか
本を焚火にくべ始めたのだ
憐れ 本は全て灰になってしまった
灰は木枯らしに撫でられてびょうびょうと飛んで行った
それは嘆きの声のようだった
怒っていた巨人はそれで満足したようだった
額の汗をぬぐってにたりと笑った
そのときだった
怒っていた巨人の世界は全て海に沈んだ
巨人はしばらくもがいていたがやがて窒息して死んでしまった
魚たちだけが生き残ったようだった
そこも 漫画だった
それも 漫画だったのだ
バケツ一杯にくまれた海水の中へ漫画が丸ごと放り込まれたのだ
それもまた別の巨人か他の何かの手によって行われたのだった
この不可思議な漫画のような世界は
合わせ鏡のように無限に続いているのだ
いつから存在するのかはわからない
誰が作ったのかもわからない
しかしそんなことは誰も気にしない
ただ この漫画の世界で皆がそれぞれ思い浮かべた通りのことを実現し、行っているのだった
創造も破壊も自由だった
登場人物のあいだに優劣はなかった
だからなのかほとんどの漫画の世界は崩壊の一途を辿るのだった
もしこの漫画の世界のルールが
現在の現実の世界にも適応されたのなら
一瞬で世界は崩壊してしまうのだろうか
誰かの活躍や閃きで留まることができるのだろうか
それは誰にもわからない
今日も漫画の世界はおもしろおかしく理不尽に崩壊している

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