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スレッドNo.5060

牛丼の旗の下  荒木章太郎

息子は就活をしている
俺は終活をしている

駅前の吉野家、オレンジの旗の下
カウンター席に並んで腰掛ける
一言も交わさず、牛丼を掻き込む
馴染みのあるタレの香りが二人を覆う

牛のように黙りこみ
それぞれの思いを反芻する

息子は週末を夢見ている
俺は終末を見つめている

咀嚼して思い出すのは
トンネルの中
ひたすら重荷を引かされた日々
荷台を引き続けてきた日々
トンネルを抜けた先に空は開かれず
ただ次のトンネルが待っている

それでも
牛丼を掻き込める幸せを噛みしめる
息子には希望を持つことを祈っている
ただそれは口にはしない
心の中で咀嚼している俺が
見透かされてしまいそうだから

家畜の肉を食べながら
次に運ばれる先を思う
俺の終わりと
息子の始まりが交差する
この駅前の一角で
オレンジの旗が揺れている
オレ達の旗を持つ

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