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スレッドNo.5088

森  上田一眞

1. 逍遥

或る冬の日
私はひとりシュラフを持って
深い森を歩いた

白い雪がちらちらと舞い始め
光が粉雪に反射して
きらきらと光る

見とれていると
迂闊なことに自分がどこにいるのか
わからなくなった

当てどなく
雑木林をとぼとぼと歩いた
枯れた蔦の弦が
妙に絡みつく

私はきっと何かを捜しているのだ
何だろう
それが見つかれば
自分が何を欲しているのか
わかるはずなのだが


2. 火焔

谷川に出た
私は暖をとるため
河原に転がる石で炉を組み
火を起こした

枯れ枝を集め 朽ちた木を
火に焚べると
身の丈ほどの焔(ほむら)があがり
赤光を浴びた

  焚き火と共鳴して
  内部で轟々と燃えあがる焔

  こころのうちで
  妖しく舞う羽虫たち
  自ら火中に飛び込み 身を焦がす
  灯蛾の舞い 
    
  ああ
  これはまるで「炎舞」だ     *1

夕方まで足元の焔煙を見続けた
そして 心中で
焦げる虫を
恥多きわが人生に置き換えた

頽齢に至って
心身の衰えがこたえ始めたいま
〈過去〉に拘泥する自分のこころを
情念の焔で焼却し
天上へ昇華させたい

私は火焔を求めるその根っ子にある
わが願いを悟った
そして
焔のなかに
甘美な薫を放つ
冥界への入り口を見つけた




*1 「炎舞」速水御舟作画

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