感想と評 1/24~1/27 ご投稿分 三浦志郎 2/2
1 津田古星さん 「律儀」 1/24
なかなか面白かったです。日常ありそうなエピソードですね。日本人は比較的曖昧な文化の中で生きているので、こういった事態は欧米人よりもあるでしょうね。単に“お愛想”なのか約束的なのか、判断が難しかったり、ナアナアにしたりします。花束の件はちょっとツライですねえ。大事なのは「人は自分の口にしたことの~」の連ですね。これ、日常よくあることなので、各人、よく考えておきたいところです。僕にも似たような経験はありました。このケースでは相手の出方しだいなので、“こちら”は待っていればいいといった感じ?いわゆる様子を見ればいいってヤツですかね。
いっぽうで、相手の立場を考えると「おあいそのつもりで言ったんだけど」なのかもしれない。そう考えると話は「立場の違いほど恐いものはない」まで行き着いてしまいそうですね。相手を見定めて、いったところでしょうか。ところで「律儀な人=記憶力の良い人」「記憶力=やさしさ」は(他にもありそうといった点で)これだけではない気もします。判断(考え)や行動が主だとは思いますが、ただ、この詩の文脈からすると、上記がふさわしい気もしてくるわけです。ちょっと微妙なところですかね。ともかく“終連でいること”が最も平和なのかもしれません。
「律儀」という言葉は最近あまり使われなくなった気がします。試みに辞書を引くと「ひどく義理堅い、
実直なこと」とあります。いい言葉ですよね。スポットしてくれて大変嬉しく思っています。佳作一歩前で。
アフターアワーズ。
ご主人が仕事柄、日本刀に詳しいのは、なんか凄いですよね。オカリナ、よい趣味をお持ちです。
2 相野零次さん 「漫画」 1/24
結論から書きます。前回の話の拡散に比べ、本作は漫画世界一点に絞られ、コアな雰囲気の中でストーリーが流れていきます。これでいいと思います。得意の想像世界が展開されますが、今回はエリア内設定がしっかりしているので、ぶっ飛ぶような想像展開ながら、前回よりは安心して読めるのです。ただ「また別の巨人か他の何かの手によって行われたのだった」は、ストーリーの終わらせ方としては弱いです。ちょっとうやむや感があります。こういった超空想世界を無事終わらせるのは相当難しいようです。そして、それ以降の論旨をどう解釈するかが大変難しいのです。
想像的かつ創造的なストーリーが漫画世界では常に破綻の危機をはらんでいる、といったことなのか、どうなのか?僕はこのことを考えながら、この詩はそんな漫画世界の謎や不可解を提出したものと思っております。佳作一歩前で。
3 上田一眞さん 「堺」 1/25
珍しく、ちょっと苦渋に満ちた詩でした。まさにアリスの歌詞のような。仕事で約一年の単身赴任。
なにか建築業界向けのメーカーのようですね。どこの業界でもそうですが、メーカーから販売店などに出向したりすると苦労する話はよく聞きました。たぶん、そういった事情と思われます。セールスも又難しいものです。孤軍奮闘、悪戦苦闘ぶりが伝わってきました。父上が亡くなってすぐ、というのもあったのかもしれない。「堺の街には~結界がある」「いやいや そうじゃない」「結界はわがこころの内にあって」はしっかり読んでおく必要がありそうです。異動先での仕事の過酷が、たまたま堺であっただけです。堺が悪いわけではない点は自明です。一族は遠く堺まで船出した。何かの縁もあったのでしょう。古い歴史を持ち商業・工業共に発達。政令指定都市で大阪市に次ぐでしょう。上田さんが当時、鎌倉に来ても同じだったということです。アリスの歌詞が再登場する単元が読みどころ。堺は海も近いんでしたね。海と相対しながら、苦悩が風景と行いに色濃く滲んでいます。詩は苦渋のまま終わっています。このアリスの歌詞の影響力は大きいと思います。苦みがあるので、せめて甘みを入れた佳作とします。
アフターアワーズ。
奇縁と言うべきか。この詩の投稿直前に堺を起点として南下する土地を調べる縁がありました。
地名で言うと、岸和田~貝塚~泉佐野、さらには樫井、少し離れて淡輪(たんのわ)……。
4 白猫の夜さん 「3分間のティー・タイム」 1/25
いつか言おうと思っていましたが、なかなかステキなペンネームをお持ちですね。
この方面に全く疎いので、まともな感想が書けるかどうか? まあ、調べまくったわけです。
初連は抽出ポットで3分間蒸らす場面でしょう。そして茶葉のジャンピング。「魔法使いのおうち」とはそのポットの比喩と見ます。
タルトタタンはすでに調理済みと見られます。3連ではテーブルの様子?「とんがり帽子~小さなほうき」はわかりませんでした。飛ばします。砂時計の3分が「紅茶と私=魔法使いと私」とのワクワクタイムとでも呼びましょうか。最後の一滴(ベストドロップ)が大事のようですね。その次の「クラウン」はわかりません。最後は豊かな味と香りを堪能しています。
けっこう作り方のほうにも比重を置いているのがわかります。正統的な作り方を作者さんのオリジナルな言葉で表現したと言えるでしょう。楽しい時間とちょっと可愛らしい詩行が魅力ですね。
全くの門外漢なので、テーマに対する詩行の具合がよくわかりません。すいませんが、評価は割愛させて頂きます。
5 上原有栖さん 「New Born」 1/25 初めてのかたですので今回は感想のみ書きます。
よろしくお願い致します。
非常に高らかな精神性を感じさせる作品です。この詩を解くカギは……
「祖国を憂いて涙した/あの日の少女はもう居ない」「少女はこの後聖女になった」
この少女が誰か?に尽きる気がします。「行進、鼓舞、旗、前進、祖国、血」などから、僕はなんとなくジャンヌ・ダルクをイメージしたのですが、まあ、たぶん違うでしょう。もっと現代寄りの中国や香港や韓国などに女性活動家がいたのかもしれない。「白いガーベラのブローチ」もヒントになりそうでしたが不明でした。前半にもう少しヒントがあると嬉しいですね。時代や場所的なものを入れてもいいでしょう。あるいは全くモデルとかはなくて、独創かもしれない。「生まれ変わった」とあるので、タイトルは「REBORN」というのもいいかも? これは聞き逃してもらってかまいません。詩には勢いというか推進力がありました。ぜひ、また書いてみてください。
6 司 龍之介さん 「聡明なあなたへ」 1/25
冒頭+上席佳作と致します。
早い段階で「あなたは芸術家」と規定されます。「私」は「あなたという画家」の作品対象者。しかも何度もその対象になったフシがあります。こういった状況では特別の感情が芽生えやすいものであります。すなわち愛であります。詩中にも、それを充分感じさせるものがあります。そして構図上で言うと、二人の立場を明かす、その距離感(前半と終わり近く)がちょっと面白く効果を上げていると言えるでしょう。2連前半の考え方はユニークで印象に残りました。続く3、4連では、―ちょっぴり悲しいけど―物事のいっぽうの真理が語られます。終わり2連は「ふたりのこと」。もしかすると、ふたりは愛しながらも、どこかに相克もあったのかもしれない。
この詩はいろんな言葉で言い表すことができます。曰く―「切なさ、やるせなさ、憂い、哀しみ、諦念」。この詩の良さはそういったものを、淡々と抑制の効いた文体に乗せていることなんです。なにか、突き上げてくるものを懸命に抑えながら綴っているような……。涙が出そうなんだけど、それをこらえる為に無理に笑ってみせるような……。そんないじらしさを行間に残しています。そこがすごくよかったのです。
アフターアワーズ。
大勢に影響ないので、こちらに書きます。「一旦寝て明日になればまた一から」の「一」です。
表記上、ピンと来ないです。意味は理解できますが、誤読を避ける意味からも別表現のほうがいいでしょう。あと最後の「クスッ」はこの詩のイメージとちょっと違う気がします。もそっと抒情的に笑ってもらいましょう。どちらも簡単なことです。
7 松本福広さん 「毒の名はアノン」 1/26
ガードレールや電線の詩。社会派の詩人さんといったイメージがあります。今回はそんな横顔に、より濃度を感じました。注釈助かります(感謝笑い)。テーマくっきり。匿名とは昔からあったんでしょうが、昨今の個人情報保護の観点から、ますます増えているのでしょう。やや負の要素を引きずりながらも、それ自体はまずまずニュートラルなものですが、それだけに悪用されやすい。すぐに浮かぶのはネット上や投書での極端な非難・誹謗中傷でしょう。この詩では「薬→毒」に喩えて展開しています。非常に巧みな喩えです。
2連では効能が書かれますが、それ以降はだんだん怪しくなり、ガラリと毒の表情を見せる。どの連・行もその属性を見事に言い当てています。一番恐いと思ったのは「自らその道へ選択をするよう追い詰められる」、ここですね。殆ど現在形で書かれているのも恐怖を倍加するかのようです。まさに至言での警鐘と言っていいでしょう。佳作です。
8 荒木章太郎さん 「牛丼の旗の下」 1/26
タイトルが珍しいし、それ以上にびっくりしますね。荒木さんの作風としても、ちょっと珍しいと思います。しかし冒頭と4連目には得意の同音異義語が出ました。その意味・状態の対比の面白さがあります。世代交代が意識の隅に表れています。これはそんな父子の日常のひとコマ詩。5連は明らかに今までの生き方の比喩でしょう。これからもそんな時間が待っている。そういった時間作用の中で、息子さんへの願い、やがてバトンが渡されることを思っている。息子さんの側を想像すると、黙々と食べながらも自分達父子の何事かを思っていることでしょう。そこは父子。言わず語らずの内にも、今と先に思いを馳せている。それが父子の証明の旗。こういうリアル詩も好意をもって読むことができます。甘め佳作を。
9 静間安夫さん 「切子の器」 1/27
まずはネット上の写真を見ました。大変美しく、心魅かれるものがあります。まさに工芸品。
値段もなかなかのものがあります。思わず買い求めたのもわかる気がします。詩は時間と光によって、変化する器の表情が美しく活写されます。脆さ、儚さを予感するからこそ、美はそこにある。ガラス工芸のありようが理解されるのです。「とっておきの地酒を新しく美しい器に」。これは左党にとって、この上ない贅沢でしょう。あとは美味なるつまみでキマリ、ですね。やっぱりこういう時ってとびきり美味しく感じるものでございます。もうひとつ語られるのは自身の孤独です。その境遇と酒器との連れ添いも、スペースを取り実感されています。よい酒。よい器。そのくらいの楽しみはあっていいでしょう。ちなみに、つまみに”佳作“をどうぞ。どうか、この器を日々の慰めに―。
評のおわりに。
上記の評に「左党」(酒飲み)を使いました。(なぜ、こう言うんだろ?)―調べたところ、江戸時代の職人は右手に槌(つち)、
左手にノミを持っていたそうです。その左手の「ノミ」が「飲み」に通じ、「左党」とこじつけられたようです。
やれやれ、これで安心して飲めますな(笑)。 では、また。