耳でいたいな 荒木章太郎
朝、窓を開けると
寒波がなだれ込む
耳がいたいな
吐く息は白く
儚く消えて
何の叫びにも
力にもならない
子供の頃に夢みた
21世紀は ただ 風に消えた
これまでは
熱い季節の高画質の蜃気楼を
ただ 追いかけていた
夢と空想で
現実から目を逸らしていた 俺
耳がいたいな
夜空が冷えて澄んでくると
闇に紛れて押し込められた叫びが浮かび上がる
聞こえないふりをしてきた
街角の叫びが
夜の静寂に溶けてゆく
自分のことにしか
目を向けられず
上ばかり見上げ
人を支配してきたもの達の
不安と恐れの叫びが
聞こえてくる
耳がいたいな
もう、これからは
俺のことは二の次にして
澄みきった朝の空気広がる
この青空のような
耳でいたいな