街路樹の涙 佐々木礫
十一月。街を覆うのは灰色の空。
冷えた風がビルの隙間をすり抜け、行き交う人々のコートを揺らす。
ネオンの光は昼間の明るさにぼやけ、
この街の全てが白い霞の中にある。
駅前の道では枯葉が舞い、足早に通り過ぎる人の靴に踏まれながら砕けていく。
信号待ちの群れの中、噂する声が耳を刺す。
「あの服、趣味悪すぎない?」「空気読めないよね」「友達いないのも納得」「かわいそう」「いやいや、もう存在が無理」「さっさといなくなればいいのに」
自尊を賭けた闘争、権力の風が吹いている。
その黒風の犠牲者を想い、
涙が頬を伝い落ちるように、
街路樹からは、枯れ葉が落ちる。
「もうすぐ冬だよ」
彼が告げる季節の訪れ。
枯れた母親が眠りに就く、その足元で彼は微睡む。
街路の行進者は彼を踏みつけ、彼は痛みに目を覚ます。
千切れ行く体を忘れるように、明るい声で彼は言う。
「もっと高いところへ行こう!」
また、アスファルトと靴の間で傷が増える。
「さあ、急がないと!」
冷たい風が一つ吹き抜けて、彼は地面すれすれを錐もみして不格好に舞った。
「あはははっ」と笑い声を響かせながら、彼はこちらへと手を伸ばす。
その手を握りたいのに、悴んだ僕の指先は、不自由な僕を笑っている!
言葉一つ言えぬまま、まだ信号が変わる前、一歩踏み出した僕の目の前、
車に轢かれて彼は散り、その笑い声は消え去った。
やがて信号は青になり、群衆に押され、僕も歩き出す。
音の無い風が頬を刺す。僕は初めて気が付いた。ここはもう既に冬だった。