牛丼のうた 荒木章太郎
息子は就活をしている
俺は終活をしている
駅前の吉野家、オレンジの旗の下
二人は出会い、並んで座った
牛のように黙って
牛丼を掻き込みながら
思い思いに反芻していた
息子は週末を思い
俺は終末を思う
この先、何が起きようとも
俺の胆は据わっていた
牛丼を掻き込める
幸せを噛みしめて
息子には希望を
持つように祈っていた
それを決して口にはしない
反芻している頭の中が
見透かされてしまうから
家畜(牛)を食べていながら
何かに食べられることを恐れながら
長いトンネルの中
社畜(牛)として荷台の上で揺らされて
どこかに運ばれる人生
トンネルを抜けた先に
光が見えたと思いきや
そこはまだトンネルだった
息子の行く末を案じていた
黙ったまま
流されるまま
そもそもどうして
二人を牛に例える
遠い先祖は狩猟をしていた
群れを嫌って狼となり
一人が辛くて犬になり
犬が太って豚にでも牛にでも
頭の中なら何にでもなれる
反芻するのをやめてみた
自分の力で咀嚼してみる
欲望に任せて手にしたものを
削ぎ落として身軽になって
荷台を降りると決めたんだ
息子よ、結果ばかりを求めていないか
始めがあれば終わりがあると決まっているんだ
これから先の体験をどう捉えるかは
俺たちで決めることができるんだ
どうか家畜にならずに
自由の旗の下
人間のままでいて下さい