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スレッドNo.5160

喪失  温泉郷

川沿いの土手を自転車で
北へと向かう途中だった
周りの風景が歪んで見えた
空間が歪むということが
本当にあるなんて
気を付けて運転しなければ
と心の中では分かっているのに
体全体がふわふわと浮いてしまい
サドルの感触も
ハンドルを握る手の感覚もなく
ペダルをただ漕いでいた

このまま
消えてしまっても
いいと思って
タイヤから伝わる
砂利を踏んだ感じだけを頼りに
土手を
自転車で北へと向かった

北には下宿があるが
そこに帰って
どうしようというのだろう

失ったという事実
失った……
それを認めなければならない
失ったのだ
なのに なぜ
あの人の別れのあの顔に
疑念が浮かぶのだろう

まさか?
もしかして?
疑念が黒い影となってよぎった
自分の中で濾過したものの
澱のような何かが
今度はかなり
はっきりとした
輪郭をもって
硬く迫ってきた

サドルから伝わる
踏んだ石の感触が
軽い痛みに変わる
体中の感覚が歪み
北へ向かっているのかも
分からなくなってくる

空間の歪みは
どこまで続いているのだろうか
あの川の向こうの橋を越えれば
歪みは消えるのだろうか

橋が近づいてきた
いつも賑やかな橋の上には
人も車も見えなかった
見慣れた橋の赤い欄干が
よそよそしく錆びていた
橋は結界なのだ
あれさえ破れば……

しかし その先には
歪んだ空が歪んだ色のまま
どこまでも
ただ 続いているようだった

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