雨音 秋さやか
宵闇の匂いに満ちる帰宅途中
仄明るい改札を出ると
ぽつりぽつりと雨が降っていた
仕方ないので濡れて帰ろう
疲れていて走る元気もないから
諦めの歩調で
雨音に包まれる
雨音
というけれど
雨に音はないのだと
ふと思う
何かと触れ合って
はじめて音を奏でる
半透明のビニール傘
色褪せてひびの入った煉瓦
鯉のゆらめく緑青の池
触れて
流れて
落ちて
それぞれの音を奏でる
雨音は
物言わぬ物たちの声
街灯に照らされる
細かな雨粒は
無音のまま
光って
砕けて
咲いて
わたしを濡らす
言えなかった言葉
伝えられなかった気持ちを
思い起こさせて
わたしの声もまた
トタン屋根や切り株や小窓の声と
混じり合う
幾層にも
重なり合った雨音が
さみしい物たちを慰めてゆく
やさしく安らかな
雨の夜