みいちゃんとおケラ 上田一眞
みいちゃんは悲しかった
母が畑で捕まえて来たおケラが
死んじゃったんだ
*
初夏の或る日
母は小さな木箱におケラを入れて
飼ってごらんなさいと
妹に手渡した
みいちゃんは嬉しくて嬉しくて
餌の人参をやりながら
この虫を育てようと
こころに決めた
観察を続けていると
おケラは箱に敷いた腐葉土を掘って
ゴソゴソ動くから
モグラみたいで面白い
胴体を糸で括って土に潜らせ
引っ張り出してみたら
モゾモゾと暴れた
そうだ これをお兄ちゃんに見せよう
みいちゃんはおケラを持って
浜へ走った
*
その日
僕は海に入って
ノミタレゴチをヤスで突いていた *1
こいつは天ぷらにすると滅法美味い
母に二十匹以上捕って来ると
約束していた
お兄ちゃぁん〜
妹が浜辺で呼んでいる
これ見て見て見て
面白いよ〜
おケラの胴体を糸で括って
砂に潜らせているようだ
僕は魚を捕るのに夢中で
みいちゃんのことは気にかかりながらも
放っておいた
*
二時間が経った
何とか 必要な数ほどコチを採って
妹の所に行ってみると
膝っ子像を抱えて渦困っている
おケラさん動かんようになった
死んじゃったのかなぁ…
見ると砂地に
骸になった小さな虫が横たわっている
熱い砂の上で遊ばせたのが
無理だったのだ
みいちゃんは
涙を浮かべていた
お兄ちゃんに見せたかったのに…
ごめんよ 遅くなって
畑の虫は浜で生きることができないの
砂は熱いからね
よし
おケラさんのお墓をつくろう
さくら貝のお墓にしよう
砂浜でさくら貝を捜し
ピンクの貝殻を三枚見つけた
山の畑に骸を埋め
貝殻を並べて墓石の代わりにした
ジー ジー ジー
ジー ジー ジー
ジー ジー ジー
蒸し暑いその日
一斉に虫が啼いた
あ〜 おケラの大合唱だ
みいちゃん
おケラさんがみんなでさよならを
言ってるよ
兄と妹は暮れなずむ
畑に立ち盡くし
おケラの啼き声に耳を傾けた
*1 ノミタレゴチ メゴチの地元名