電車での あの出来事 まるまる
乗り合わせた電車
やった 席一つ空いている
座ろうとして 目をやった通路の真ん中辺に
置いて行かれた誰かの
嘔吐の跡
少し 寂しそうに
そういう訳か
ほんの少しためらったけど 腰を下ろした
数人のコソコソ声が耳に届く
匂うね
赤ちゃん乗ってたのかね
ふと 左から女の子二人 20代くらいか
膝を曲げ
レジ袋とポケットティシュで
嘔吐物をふき取り始めた
コソコソ声はぴたりとやんだ
しばらく1ミリも動かなかった私は
近づいて 3枚4枚
自分のティシュを差し出した
女の子は顔を上げ
助かります
ティシュ少ししかなくって
次の駅に着くころには
あらかた片付けを済ませてくれた
ひとりの年配の女性が
えらいね
と 女の子の肩に手をやり
電車を降りた
その人は賞賛を伝えることで
おさまりをつけたのだろう
この出来事に居合わせた ご自分に
私はと言えば
自分のゴールがどこかわからず
もう 接点のない人になっていた
私にとってこの事は
日常 ではなかった
でも私は
ほんの少し関りを持った 自分から
次の日からまた いつも通りの暮らしの中
何度も思い出す 電車でのその出来事
忘れてはならない何かを
置いてきてしまったように思えて
追いかけて 聞けばよかった
どうして きれいにしてくださったんですか?
お二人のせいじゃないのに
そうしたら
帰着できたのかもしれない
尊く 得がたい体験として
どこかでまた 会えないかな
あの時の あのお二人に