色 樺里ゆう
忘れられない 景色がある
六月の夕方 バス停の向かいの茂みで
風に揺れる葉の隙間から漏れていた
トパーズ色の光
レモン味のドロップを散らしたような
西日のかけら
夜になれば
空はみどりがかった深い青色
ターコイズブルーを 暗く 暗くしていくと
きっと あんな色になる
三月の帰り道 薄暗くて寒い運動場の隅で
夕焼けを写し取った水たまりの、
グレープフルーツジュースをこぼしたみたいな
濃くて透き通るピンク
八月の夕暮れ時 山陰線から見た日本海
空と海のさかいめが淡く溶けだしていた
サーモンピンクまじりのブルーグレー
十二月の放課後 誰もいない廊下の窓から差し込んでいた
うす黄色の日差し
まぶしいのに 目が離せなくて
息をひそめて 見つめていた
一月の昼下がり 高速道路から見下ろした
山間の川
上流は あんなに濃くてとろりとした抹茶色なのだと
初めて知った日
どの瞬間も 私は
ただ脳内で必死に言葉を探しながら
目の前の景色に見入っていた
忘れられない 忘れたくないから
あの色たちを
どうしても言葉にしたかった
たとえ人間の記憶が
簡単に書き換えられてしまうような
頼りないものだったとしても
あの日 あの時 あの光景を
目にしたのは私だけだったのだから
ずっと 覚えていたかった
言葉をよすがにして
何度でも
思い出したかった
あの色たちを