幻想の街 相野零次
街が破壊されていった。僕が日々、夢の中で作り上げた幻想の街が。
破壊しているのは恐竜のようなおおきな怪物たちだった。
人間や他の生物は巻き込まれなかった。というよりも、最初から作っていなかった。
僕は日々の幻想のなかで街を少しずつ作り上げていったのだが、人や生物は作らなかったのだ。
孤独な、僕だけによる、僕だけの街が欲しかったのだ。
今日は昨日つくりかけだった無人の動物園の続きを作るはずだった。しかし幻想の街で目覚めた瞬間、そこにいたティラノサウルスのような怪物が建物へ足を踏み下ろすところだった。爆音が響いた。
僕はまず呆気に取られた。これはいったいどういうことだろう。この幻想の街には僕以外の生物はいなかったのに。見渡せば、プテラノドンやトリケラトプスのような、もっとわかりやすくいうと特撮アニメのウルトラマンに出てくるような怪物がそこかしこにいて、何年もかけて作り上げた僕の孤独な街を破壊しているのだ。
不思議と哀しみや苦しみはなかった。壊されたものはまた作ればいいのだ。そこには破壊の美学のようなものがあった。ものが作り出されるのは美しいが、破壊されるのもおなじような美しさがあった。それにしてもこの生物たちはどこからやってきたのだろうか。
おそらくだが、こういった幻想の街を作り出せる人間は他にもいて、そのなかの悪辣な一人が、他の街を破壊すべく作り出したのだろう。僕にもそういった生物を作り出す術はあった。最初から身に着けていた。だが僕は作らなかった。あくまで僕は、誰もいない何も存在しない無機質な僕だけの街を作りたかったのだ。
しかし今、この破壊されている光景をみて胸に去来するものがあった。それは懐かしさと呼べるものだった。
ああ、あの家は僕の好きな子の家だ。そういえばわざわざ理由をつけて家まで遊びに行ったんだっけ。ディテールをちゃんと再現したくて。あの公園、あの滑り台や鉄棒、誘導円木まで、写真に撮って再現したんだっけな。
そう、僕は大きなジオラマづくりに凝った子供のようなものだった。
僕はもう子供と呼べる年頃ではないのだが、その街にいるときは不思議と小学校高学年ぐらいの子供の姿だった。
破壊されていく街並みを眺めながら、やがて自分の家に辿り着いた。火星人のような怪物がドアを大きなハンマーで破壊したところだった。火星人は一瞬、僕を見たが興味はなさそうに、また家の破壊を再開した。
興味がないというよりは、手出しをしないようにプログラミングされているようだった。作るのに3年ほどかかったタワーマンションを破壊し終えた怪物たちが、去っていくのが見えた。破壊されていく街並みを眺めるのは楽しかった。この怪物たちを作り上げた人間からすれば嫌がらせの思惑が外れたと思っているのかもしれない。
たぶん、作り上げた全ての建物を破壊する気だろう。
破壊を止める術はなかった。怪物たちに立ち向かう気にはならなかった。
想いを巡らせているうちに、我が家がすっかり廃墟と化していた。破壊していた怪物たちはぎゃあぎゃあと鳴き声をあげながら去っていた。
二階の自分の部屋があったであろう場所を散策した。
学習机が真っ二つになっていた。机の引き出しのひとつをあけると、そこからアルバムを取り出した。
この街を作り上げるために撮った写真の入ったアルバムが、何冊も出てきた。
これをもとにまた一から作り上げるのもいいし、他にもこういった幻想の街が存在するなら、そこへ行ってみたいという欲望にも駆られた。
アルバムを地面に置き、周りを見渡した。
破壊され火煙をあげる残骸の街と、夜空の星のコントラストが綺麗で、僕は持っていたカメラで写真を撮った。
僕の街はまたこれから復興するのだ。