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スレッドNo.5200

緋鳥鴨  上田一眞

夕暮れも間近い
冷たい風吹く湖畔の小径

湖水からあがった一羽の緋鳥鴨(ヒドリガモ)が
茶色い頭を
胴体の上に置いて蹲っている

近づいても逃げようとせず
瘧(おこり)のような
身体の震えを見せている

腕を伸ばし
子猫をあやすように愛撫すると
漆黒の瞳で私を見つめ
指を噛んだ

 ピュゥーィ

傷ついているのか
啼き声が疎林の間を突き抜ける

瞳に湛えたのは 怒り
或いは哀しみ

誰に向けて放散したものなのか
相争った仲間たちへか?
それとも
私に対するものなのか?

ショルダーバックから牛乳パンを取り出し
千切ってやると
力なく啄んだ

夕焼けの
赤い木漏れ陽が鳥を襲う
寄る辺ない他者の地で
傷ついた鴨

北の水辺に帰れ
たとえ穢土であろうとも
浄土であろうとも
そこは自分の故郷だ

もう春も近い
疾く天翔けて行け
蘇生せよ 緋鳥鴨

濫觴の地で羽根を広げ
身内に巣食った屈托を
追い払え

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