水溜り 樺里ゆう
転勤を機に
中学生の頃以来 九年ぶりに
自転車に乗りだした
雨上がりの朝
水溜りの上に車輪が割り入ると
蜘蛛の巣のように
花火のように
しぶきが広がり
透明で涼やかな音がする
そして思い出した
中学生だった私も
この光景が好きだったことを
静かな鏡面を
やわらかにくだく
それが雨上がりの楽しみだったことを
人間の脳って 本当は
ぜんぶ覚えているのかもしれない
普段 思い出さないだけで
何かの拍子に
記憶の引き出しが開けば
かつての私に何度だって
出会い直す
忘れていた私に
出会い直す
その瞬間
私は
私を取り戻したような気になる