星を隠す 人と庸
ふたつの相反する事がらの
ちょうど真ん中に立ってみる
(ただしいとまちがっている)
(たのしいとくるしい)
(うれしいとかなしい)
(すきときらい)
道標(みちしるべ)のようなふたつの光の
どちらからも遠いところに立ってみる
(ただしくもなくまちがってもいない)
(たのしくもなくくるしくもない)
(うれしくもなくかなしくもない)
(すきでもなくきらいでもない)
そこはまるで星のない夜のようで
みながすこしずつ隠しごとをしているこの世界に
とても似つかわしく思えるのだ
※
けれども今日の冷えきった夜空は
なにも隠しはしなかった
オリオン座のつづみ形
牡牛の顔のV字形
おおいぬの鼻のしめった光も
双子の頭の不公平なかがやきも
星たちは季節も時間も方角も示しているのに
わたしには標(しるべ)が見えず
きみにはわたし以外に寄る辺がない
そんな一人と一匹でどこへ行こうか
刃物のようにつめたい風は
意識をも切り裂いて 傷口からは
どこまでも歩いていく意志が流れ出る
かつてはそうだった
今はただ転ばないために
足を前に出し続ける
意志よりも希望よりも先に
※
(ただしさはくるしさになり)
(くるしさはまちがいをうみ)
(まちがいはたのしくもあり)
(たのしいとかなしくなったりする)
(そして)
(すきでありきらいであっていい)
(それらをうれしさがとおくからみつめている)
※
きみは走り出す
足は地面を何度も蹴って宙を舞い
この道がどこまでも続くと信じている
わたしも走る
地面からむりやり剥がした足は重いけれど
この道に終わりがあることだけは知っている
きみもわたしも笑わない
きみもわたしもしゃべらない
わたしたちだって隠すことがうまいのだ
きっとうまく生きていけるだろう
下り坂に転がされるように走っていると
星々はいつのまにか眼下に広がっている
あの星たちはみちびくためのものではない
その数だけの意識があるというしるしだ
そしてそこでは 様々な
相反する事がらが交錯しているのだろう
立ち止まったわたしたちの熱い呼気で
それらを少しかすませる
隠しごとをするには 今日は
明るすぎる夜だから