追慕 上田一眞
長者ヶ森へ続く細い道
揺れる若草に
春の息吹を感ずる
西の彼方から白い雲
風 わが身に迫るとき
そのなかに
美しいあの人の香りを嗅ぐ
風に運ばれた
潮の香に似たあなたの体臭
ああ あなたは遠く
西海の小島にいるのだと…
十四のとき知り合い
二十二で別れたあなた
少女からめくるめく大人の女に
瑠璃色の蝶の如く脱皮したあなた
丘の上に
新たな雲が湧き 風に乗る
千切れちぎれに飛んで
また新しく大きく…
雲の数ほど
あなたへの追慕を唄い
過ぐる日の愁いを知る
それは確かに〈愛〉に近かった
春の日 遠いあの日と同じように
草原は輝き
天に向かってチチチと
雲雀が囀った